朝日新聞が描くプーチン像とは?

こんばんは。

  アメリカにトランプ大統領が登場してから、国際社会は殺伐とした状況を呈しています。

  トランプ大統領の登場が世界に対立の構図を導き出しているのか、世界の煮詰まった状況がトランプ大統領を生み出したのかは、ニワトリが先か卵が先か、との議論と同様となりますが、世界の保守化、右傾化、独裁化は、相当に危機的な状態を生み出しています。アメリカとロシア、トルコやイラン、ベネゼイラや北朝鮮、そして韓国、中国、とリーダーが強い権力を手にして「独裁」に近いパワーを行使していることが、世界を軋轢と格差の世界へと導いています。

  第二次世界大戦によってこの地球、そして人類は大きな痛手を蒙りました。もちろん、アジアで侵略行為を行い、武力で帝国主義を敷衍しようとした日本は、その過ちを二度と繰り返すことのないように国際連合のルールや国際法を順守して平和国家を貫かならなければなりません。それは必要なことですが、世界の独善は日本を置きざりにして、どんどん深みに沈んでいきます。

  イランや中国VSアメリカ、ヨーロッパ連合(EU)VSイギリス、NATO諸国VSロシア、イランVSサウジアラビア、ウクライナVSロシア、日本VS韓国。どの対立も、お互いが自らの正当性を前面に押し出して、一歩も譲ろうとしません。特にアメリカのトランプ大統領は、オバマ前大統領が8年間で成し遂げてきた「平和」や「格差是正」、「自由と平等」への変革政策をことごとく否定しています。国内政策は独断と偏見に満ちており、すべての判断基準が自らの支持層が喜ぶか否かを中心として、成果を上げる取引(ディール)のために働いているとしか思えません。

  国際社会においてもその姿勢は変わらず、オバマ前大統領が交わした協定や条約を次々に否定しています。最も恐るべき破棄は、ロシアとの間で結ばれた中距離核兵器廃棄条約からの離脱を表明したことであり、さらにはイランの核保有を制限するために結ばれたイラン核合意からも離脱すると言う、世界を震撼させるような決断を下したのです。

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(核兵器廃棄条約破棄を語る asahi.com)

  国際法から言えば、条約や協定は国と国の約束であり、政権が変わったとしても国家が存続する限りその約束には拘束力があります。基本的には、相手との合意がなければ、離脱、破棄は行わないことがルールとなっています。しかし、国際社会とはそれぞれの国家の意志と主権が基本となっており、一国の判断を強制力を持ってやめさせることはできません。従ってトランプ大統領が行う意思表示は、アメリカの意思表示としては有効となってしまうわけです。

  こうした国際的な規範を飛び越えた意思表示は、韓国のムン大統領もトランプ大統領と同様に行っています。韓国では、政権が変わるたびに前政権を犯罪者扱いして落としめすことが通例になっています。そうした意味では、国内では前政権をすべて否定して新たな政策を行うことで国政が一新されます。しかし、どんな政権であっても、前政権が国際社会で行った約束は継続して守らなければなりません。過去、互いの国の政治家たちが両国の未来のために必死に考えて締結した約束を、様々な理屈をつけて無視することは国際的には許されません。

  国と国の信頼関係は、政権を超えて約束を守ることで築かれていきます。

  ところが、韓国のムン政権は1965年に両国で結ばれた「韓国と(日本)の請求権・経済協力協定」を無視しています。この協定は、過去からの様々な歴史的な課題を互いが認識し、歴史認識問題や竹島の領有権問題をあえて棚上げにして、互いの国の発展のために合意した協定です。さらに、パク前大統領は、慰安婦支援財団を日本の支援金で立ち上げ、日韓慰安婦問題を解決することに合意しましたが、ムン政権はこの合意もその効力を認めず、なんと財団の解散という国際社会では考えられない無謀な政策を実行しました。

  世界の国々は、韓国と日本の個別の問題については国際的な外交ルールからコメントを行わず、静観する姿勢を貫いています。

  日本は、国際社会においては国際連合のスキームを尊重するいわいる大人で優等生を貫いています。一度結ばれた協定は2国間では有効であるとの原則に基づき、韓国が元徴用工の問題で日本企業に賠償を請求し、その資産を差し押さえる判決が出ても、日本は、協定に基づいて二国間協議を要請。これを韓国が無視すると、さらに協定に基づいて、第三国の委員を含む仲裁委員会の設置を申し入れました。

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(日本をひたすら非難するムン大統領 sannkei.com)

  韓国は、こうした国際協定に基づいた要請をことごとく無視したにもかかわらず、日本が韓国を貿易「ホワイト国」からはずすと発表したとたん、「両国間の協議」を申し入れてきました。その国際法的に非常識な振る舞いは、国際的な規範をないがしろにする暴挙と言っても良い行動です。日本と韓国の不幸な過去に対する認識の違いはそれとして、少なくともルールに対しては何らかの答えを発信するべきです。都合の悪いことは無視して、都合の良い時には相手の不作為を非難する、これほど品位のない行動は、まるで19世紀の帝国主義時代の振る舞いです。

  国も人も、まず誠実な態度がなければ信頼を築くことができません。過去の約束に対して、韓国がすべて無視し続けるとすれば、韓国と日本の間では何も生み出すことが出来なくなるに違いありません。公式には無理でも、民間ベースでは水面下でお互いの肯首ができないものでしょうか。我々は草の根の国民として、それを求めています。

  さて、今の国際社会ではあまりに身勝手ばかりがまかり通っているので、思わず話が長くなってしまいました。しばらく、仕事が忙しくなってブログが更新できませんでしたが、まずは先週読んだ本をご紹介します。

「プーチンの実像 孤高の『皇帝』の知られざる真実」

2019年 朝日新聞国際報道部著 朝日文庫)

  この本の題名は大向こうをうなされる大袈裟なものですが、プーチンをして「孤高の『皇帝』」と呼ぶことはとても的を射たものと思えます。

  2018年318日。この日、ウラジミール・プーチン氏は第4代のロシア大統領を選ぶ選挙でなんと76%という驚異の得票率を獲得して当選しました。2012年の就任から第二期目の大統領を担うこととなり、その任期は2024年までとなります。2000年にロシア共和国の大統領に就任したプーチン氏は、3選を禁止する憲法の規定により2008年に大統領をメドヴェージェフ氏に譲ります。しかし、氏は目処ヴェージェフ大統領から首相の指名を受けると、影の大統領としてロシアに君臨しました。

  つまり、プーチン氏は2000年から実質24年間ロシアの国に君臨することになるわけです。

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(朝日文庫「プーチンの実像」 amazon.co.jp)

【プーチン氏は「皇帝」なのか】

  私のプーチン氏の印象は、長い間諜報機関KGBと不可分の一体でした。KGBは、泣く子も黙る旧ソ連の諜報機関で、アメリカのCIAと熾烈な諜報戦を繰り広げたことで有名です。その国家の存続までを懸けたインテリジェンスは、フリーマントルの小説に描かれたように手に汗を握る物語です。その裏の裏までを見抜いたヒューミントや非合法な手段による拉致や洗脳、さらには暗殺など、それは人間の体力と知能の究極曲を求める世界です。

  そのKGB出身のウラジミール・プーチン。得意の柔道も含めて、まるでスーパーマンのような印象でした。さらに2012年に大統領に再登板した後には、チェチェン問題やウクライナ問題で、メディアに対して徹底的な統制を強めたこともその神秘的な恐ろしさに拍車をかけていたのです。

  そうしてこの本の「実像」というワードに惹かれて、この本を手に取ったのです。

  この本は2015年にプーチン大統領が安倍総理大臣の求めに応じて、安倍さんの故郷である山口県の長門市を訪問するにあたって、朝日新聞紙上に連載された特集記事が基本になっています。ジャーナル(新聞記事)の特徴は即時性にあります。そうした意味で、この本はジャーナリスティックな記事としては古いものとなります。しかし、改めてノンフィクションとして上梓されたこの本には、ジャーナルを超えた普遍的な価値を持つ記述が数多く記されています。特に、プーチン氏を良く知る人々との多くのインタビューは、プーチン氏がリーダーとして国際社会に登場してから今日までの彼を様々な視点から描き出すことに成功しています。

  「知られざる」との言葉は少々大袈裟と感じますが、この本は現在ロシアの「皇帝」にも見えるプーチン氏の実像に、確かに近づいているように思えます。

【ウラジミール・プーチンの登場】

  この本は、全体を4つのテーマに分けています。

  第一部、第二部は、KGB職員からソビエト連邦崩壊を経て、エリツィン大統領の後を受けて新生ロシア共和国の大統領となるまでの経歴を、当時、周辺にいて彼を良く知る人々へのインタビューによって語っていくとの構成を取っています。さらに第三部は、大統領、首相としてロシアのステイタスをどのように高めてきたのかをコソボ、チェチェン、ウクライナの問題を軸に語っていきます。そこには、大統領に就任してからの理想と現実とのかい離の間でロシアのステイタスを高める道を選択したプーチン氏の姿が語られていきます。

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(平和条約締結の難しさを語る会見 mainichi.com)

  まず、意外であったのは「KGB」職員としてのプーチン氏の姿です。彼は、我々がイメージする諜報機関のインテリジェンスオフィサーではなく、どちらかと言えば有能な事務職員であったという事実です。もちろん、彼は少年時代からKGBに憧れて、その夢を実現したという意味で、KGBの中枢を担うべき人材であったのですが、ソビエト連邦のKGBに対しては様々な疑問を持っていた、というのです。

  そして、1989119日、歴史に残る「ベルリンの壁崩壊」が起こりました。

  崩壊の直接の引き金は、子の日東ドイツ政府が発表した西ドイツと東ドイツの旅行の自由化です。この発表に反応した群衆が、ベルリンの壁を破壊し、東ドイツの市民たちが東ドイツ政府の各機関に自由を求めて押し寄せることになったのです。東ドイツには、悪名高き秘密警察のシュタージがありました。125日、自由を求めてドイツ統一をめざす群衆がドレスデンのシュタージ支部を襲いました。

  このとき、プーチン氏はドレスデンのKGB支局に勤務していました。群衆はシュタージ支局に押し寄せた後、隣の敷地にあるKGB支局に迫ります。支局は極秘文書で満ち溢れています。その時に建物から群衆の前に現れたのが将校の制服に身を包んだプーチン氏だったのです。彼は、興奮する群衆を前にして静かにしかし毅然とした態度で彼らを説得しました。「ここに侵入することは断念しろ。武装した同僚にここを守るように指示した。もう一度言う、立ち去れ。」そこから放たれたオーラに熱気に満ちた群衆も冷静さを取り戻し、そこを去っていったと言います。

  この本の第1章は、このときに群衆のリーダー役を担っていたダナードグラプス氏の証言から始まります。さらにKGB時代にプーチン氏の同僚であったウラジミール・ウソリツェフ(仮名)のインタビューも交えて旧ソ連時代のプーチンの姿を浮き彫りにしていきます。

【プーチン大統領の誕生】

  ソ連崩壊の後、彼は何をしていたのか。ロシアは、新たに共和国となりエリツェン大統領が選挙に勝ち政府を打ち立てます。しかし、エリツェンは体調に大きな不安を抱えていました。彼に万が一のことがあったときにはだれを後継者にするべきなのか。意外なことに、エリツェン氏の後継候補にプーチン氏が上がったのは、彼が忠誠心の強い、しかも最も操りやすい人間だと周囲が見ていたからだというのです。

  その彼が、どうのようにしてその後にロシア共和国の中で権力を握り、2018年の選挙で76%もの支持を得るまでになったのか。ロシアを自由の国に変貌したかったその理想とそれを西側諸国に受け入れられなかった挫折。さらには、チェチェン紛争やウクライナ問題で変貌していった愛国者プーチンの姿。そして、柔道を介して日本を愛するプーチンの姿や「人」とのつながりをとても重視する人間プーチンの姿。この本は、様々なプーチン大統領の顔を余すところなく描いていきます。


  この本が上梓された2015年の時点では、北方領土問題と平和条約の問題は安倍総理の在任中には糸口が見えてくるのではないか、との淡い期待があったことがよくわかります。しかし、トランプ大統領や習金平総書記が対立の姿勢をあらわにし、ヨーロッパ対ロシアの図式が鮮明になる中、日本の置かれた状況は複雑さを増し、課題の解決は難しさを増しています。

  しかし、こんな時にこそ我々は正しくプーチン大統領のバックボーンを認識する必要があります。この本は、おそらくプーチンのある面から見た実像を明らかにしていると思います。そして、それは貴重な一面であることに間違いありません。みなさんもこの本で現代のキーマンの姿を知ってください。今後の外交の見立てに役立つこと間違いなしです。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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