こんばんは。
名探偵は事件を呼ぶといいますが、名検事もしかり。
真山仁さんの富永検事シリーズは、「証拠」と「真実」に徹底的にこだわる主人公が国家に関わる巨悪に挑んでいく物語が綴られます。
真山仁さんが山崎豊子さんの「白い巨塔」を読んで感動し、緻密で膨大な取材に基づいた小説を作りたいと志した話は有名です。「ハゲタカ」シリーズをはじめ、日本の原子力発電技術を描いた「ベイジン」、さらには日本の政治と総理大臣を描いた「コラプティオ」など、その小説の面白さは独自の色彩を放っています。
その小説の面白さは、ひとりひとりの人間をキチンと描いていく描写力と、その登場人物たちが巻き込まれていくリアルな状況が、息つく暇もなく新たな状況を生み出していく、手に汗を握るストーリーテリングの妙にあります。
この富永検事シリーズもそんな真山マジック満載の傑作です。
今回は、昨年文庫化された第三作を読んでいました。
「墜落」(真山仁著 文春文庫 2025年)
(真山仁著文庫版「墜落」 amazon.co.jp)
【まるで小説のような解散総選挙】
ところで、2月8日に行われた衆議院の解散に伴う総選挙。60年ぶりの真冬の衆議院選挙となりましたが、東北や北陸の豪雪地域では短期間の公示期間で、選挙ポスターでの公示や投票券の発送など、必死の準備に奔走した自治体職員の皆様には感謝しかありません。
解散は国会開催日の1月23日、公示が同27日、選挙投票日が2月8日。解散から投票日まで16日間という日程は前代未聞ですが、この深く吟味する余地を与えない電光石火の選挙が高市早苗総理大臣の決断力と行動力の無謀さを物語っています。
結果は、前代未聞の自民党大勝利だったので、高市さんの作戦勝ちというほかはありません。
それにしても、解散時の自民党の衆議院での議席は198議席、選挙後の議席は316議席。衆議院の総定数は465議席ですので、過半数割れの状況から一気に「3分の2」を超える議席を獲得することを誰が予想し得たでしょうか。
一方で、今回の解散総選挙に伴って、衆議院の旧立憲民主党と旧公明党が合体して結成した「中道改革連合」は、解散時167議席あった議席数が、49議席に激減するという、こちらも前代未聞の大敗北となりました。
この結果を投票した我々も驚いている、というのが正直なところです。
今回の選挙には、日本人の特異性がそのまま反映されているのではないでしょうか。
それは、熱しやすく冷めやすい「ええじゃないか」気質と言ってよいと思います。今回の選挙の投票率は、56%程度だそうですので、これまでの選挙の中では比較的多くの国民が投票したことになります。これは、これまで政治に関心が薄かった人たちが、「高市推し」に向かったことが大きな要因だと思います。
(江戸時代末期「ええじゃないか」の図 wikipediaより)
現在日本では、疲れた日々を癒やしてくれる「推し」が大きなブームになっています。それは、アイドル推し、BL推し、アニメ推し、ドジャース推し、サムライジャパン推し、サウナ推し、などなど人の数だけ推しがあるといっても過言ではありません。
もともと、生き物には「共感」するという本能が備わっており、「生きる」ことに有利となるように同じ種が「共感」することで、厳しい社会を生き抜いていくことができるようです。この「共感」が癒やしを生んで「推し活」がストレスを解消することになります。
特に日本人は、弥生時代の昔から村社会を形成して、村一丸となって物事を成し遂げるモデルを作り上げてきました。江戸幕府はこの「共感」を逆手にとって村単位での監視社会や、士農工商非民という階層を作ることで、不満のガス抜きを行ってきました。日本人は数千年にわたって「共感」能力を磨き続けてきたのです。それは、熱しやすく冷めやすい民族を作り出す元となりました。
その気質は、例えば、江戸時代末期に「ええじゃないか」と音頭をとりながら町を踊り歩く行動が一大ブームとなり、日本各地で熱狂的な踊り狂いが社会現象となりました。また、戦前には「ほしがりません勝つまでは」とのスローガンに象徴されるように、軍のプロパガンダにすべての日本人が踊らされ、日本は「戦争」一色に染まりました。さらに戦後には、アメリカの統治下にて、すべての日本人が「民主主義万歳」を唱えることとなりました。
ことほどさように、我々日本人は「共感力」が高く、「熱しやすく冷めやすい」のです。
我々の「推し活」もこの「共感力」に支えられていますが、今回の解散総選挙はこうした「高市推し活」を巧みに利用した高市解散がもののみごとに奏功したのではないのでしょうか。確かに、高市総理は「強い経済、強い日本」を再び取り戻すために、「働いて、働いて、働いて、働く」と公約しています。
しかし、民主主義は数の世界ですので、戦前の日本やドイツをみればわかるとおり、政治が多数を握れば熱狂を生み、破滅へと向かっていくこともあり得ます。ドイツの人たちもワイマール共和国の時代にまさか独裁者が生まれるとは思っていなかったはずです。日本もしかり。
(1936年ナチス政権下開催のベルリンオリンピック)
我々も我が国の政治家たちが数の論理で走り出さないよう、よく見極める必要があると思います。「現実は小説よりも奇なり」、とは真実を言い当てているのです。
【富永検事、沖縄に赴任する】
さて、小説の話に戻ります。
真山仁さんの小説は、真山チームによる稠密な取材に基づいて構築されており、毎回、現代日本が抱える大きな課題を浮き彫りにしてくれます。さらに、エンターテイメントとして、それを読む面白さを兼ね備えているところにその魅力があります。
今回、真山氏が自らの分身とも言える富永検事の活躍の場に選んだのは沖縄です。
昨日、第二次内閣を発足させた高市総理ですが、昨年11月7日の衆議院予算委員会で台湾有事に対する答弁により中国の怒りを買い、日中関係は尖閣諸島の問題以来の厳しい状況となっています。中国は、日本の水産品の輸入自粛や日本への渡航自粛を自国民にほぼ強要するのみではなく、国連や国際会議の場でも日本の発言を日本の再軍備化の象徴であるがのごとき初弁を繰り返しています。
沖縄は、台湾に最も近い場所に位置しており、そこには在日米軍基地が集中しています。その敷地は、日本の0.6%にすぎませんが、米軍基地の70%が沖縄に集中しており、その面積は沖縄本島の15%を占めています。
そして、中国は常に尖閣諸島を中心に領海、領空付近に中国人民解放軍を派遣しています。
領空に関しては、日常茶飯事のごとくに中国人民軍の主力戦闘機が出没します。彼らの目的は、日本のカウンター能力を確認することだと言われていますが、台湾発言で揺れている昨今は、その頻度が増えているようです。今回、小説のメインストーリーは、この自衛隊のスクランブル発進で利用されている米国製高速度ジェット戦闘機F-77を巡って繰り広げられる物語となります。
さて、このシリーズは、毎回、多彩な登場人物たちの視点から物語が進行していくことが大きな魅力の一つとなっていますが、今回はその語りによる面白さはますます際立っています。
まず、スクランブル発進する航空自衛隊のエースパイロット、我那覇瞬。その操縦技量と沈着冷静な判断は群を抜いており、まさにエースです。そして、防衛大学を首席で卒業し、抜群の技量を持つ女性パイロット荒井涼子。二人は、スクランブル発進の時にチームを組んでいます。
(自衛隊最新戦闘機F-35 wikipediaより)
一方、沖縄では米軍基地に土地を貸している「軍用地主」は、多額の賃料を受け取っています。小説の登場人物である金城昇一と長男の一(はじめ)は、養豚事業やレストラン経営で成功して巨万の富を築き、さらには軍用地主として年間3億円もの賃料を得ている大富豪です。
こうした沖縄基地を巡るの複雑な事情の一方で、沖縄には松山という歓楽街があり、そこには新宿歌舞伎町のトーヨコのように未成年の男女が大勢集まっています。そこでは、10代の女性が身を売って日々を暮らし、10代にして子供を産む女性も多くいるといいます。しかし、トーヨコと異なっているのは、そこにいるティーンエージャーたちが皆、とても明るく騒いでいる光景です。
小説の重要な登場人物として登場する金城一の妻、華はそうした女性の一人です。10代にして、金城一の子供を産み、若くして3児の母なり、今は、沖縄で身寄りのない子供たちの面倒を見ているフローレンスこども園の手伝いをしています。華もかつてこのこども園で生活しており、家族の愛情に人一倍あこがれを抱いている女性なのです。
ここに、登場するのが、那覇地方検察庁への異動が決まった富永検事が赴任してくるのです。過去、東京地検特捜部で巨悪の検挙に奔走した富永は、アメリカ大使館員の不正ビザ発給詐欺を追っていましたが、同盟国の事件をもみ消そうとする日本政府からの圧力によって「事件はなかったことにする。」との結論を最後に、東京地検特捜部から異動することになったのです。
その富永を待っていたのは、前任者が残したある殺人事件でした。それは、沖縄の大富豪、金城昇一の跡取り息子が、自宅のマンションで殺害されるという殺人事件でした。その犯人は、被害者である金城一の妻、華だったのです。警察官が現場に駆けつけたとき、華は無残な死体の前に血だらけで佇んでいました。その手には血のついた包丁が握られていたのです。
そして、物語は、様々な登場人物が物語を織りなしていき、進んでいきます。そのみごとなスト-リーテリングに、思わずページをめくる手を押さえたくなります。
そんなとき、中国の戦闘機がまたしても領空区域に接近します。24時間体制で監視している沖縄基地の管制塔からスクランブル発進の指令が発せられ、ジエ板野の戦闘機F―77、2機が発信し、領空区域にて中国機に警告を発します。その日、中国機にはこれまで知られていない彼我不明機(アンノウン)が一緒に飛行していたのです。アンノウンを追尾するF-77機。しかし、中国機は、日本領空を犯すことなく引き返していきました。さらに米軍機までもが登場し、F-77には、帰投指令が発せられます。
しかし、事態は思わぬ方向へと動いていきます。帰投すべきF-77は、突然急降下をはじめ、一直線に墜落してしまったのです。
そして、事件は、アメリカ軍基地、本土の防衛庁、沖縄県知事を巻き込んで大きなうねりへと発展していきます。さらに、そこに前作で富永検事と渡り合った暁星新聞の敏腕記者、神林裕太までが登場し、物語は息もつかせぬ展開を見せていくのです。
この小説は、これまでのシリーズの中でも、最も読み応えのある作品です。後半には、現防衛大臣である小泉大臣を思わせる防衛大臣も登場し、我々を存分に楽しませてくれます。そして、物語の最後を飾る思いがけない真実。そこには、今、最も旬な話題であるAI(人工知能)も関わってくるのです。
皆さんも是非この本で、社会派小説の面白さと問題提起を味わってください。その深さに時間を忘れて引き込まれること間違いなしです。
それでは皆さんお元気で、またお会いします。
〓今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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