こんばんは。
第二次世界大戦中にイギリス海軍の諜報機関で仕事をしていたイアン・フレミングは、終戦後、新聞社に勤務する傍ら、休暇時にはジャマイカの別荘で小説を執筆していました。その小説が、後にベストセラ-となり、映画化された007シリーズでした。
第一作「カジノ・ロワイヤル」が発表されたのは、1953年。フレミングは、ここから年1作のペースで007の作品を執筆し、1964年に上梓されたシリーズ11作目の作品が「007は二度死ぬ」です。この間に、フレミングと007を取り巻く環境は大きく変わっています。
まず、1961年にアメリカのライフ誌に掲載された当時のケイネディ大統領がお気に入りの本に、第5作に当たる「ロシアより愛をもめて」が入っていたことから、この作品がベストセラーとなり、フレミングは一躍有名人の仲間入りをしました。
(イアン・フレミングのブロンズ像 wikipediaより)
さらに、1961年、第6作目「ドクター・ノー」を原作とした映画が公開され、大ヒットして、フレミングは007の生みの親として、全世界にその名を知られることとなったのです。ちなみに、日本で公開された映画の邦題は「007は殺しの番号」でしたが、その後、リバイバル上映時に「ドクター・ノー」と改題されています。
こうして、イアン・フレミングが描いたジェームズ・ボンドは、シャーロック・ホームズやアルセーヌ・ルパンに並んで世界のアイコンとなったのです。
残念なことに、彼は1964年、第12作目の作品「黄金の銃を持つ男」を校正している最中に心臓麻痺でかえらぬ人となり、それ以降、ジェームズ・ボンドの新作は読むことがかなわなくなったのです。しかし、ジェームズ・ボンド愛は消えることはありませんでした。その後も、イアン・フレミング財団がふさわしい作家を選定し、007の新作を発表し続けています。
そして、日本にもジェームズ・ボンドを心から愛する作家がいたのです。
今週は、日本を舞台に描かれた007の物語を読んでいました。
「タイガー田中」(松岡圭祐著 角川文庫 2024年)
【007の日本での活躍】
007好きの皆さんは、日本を舞台にした007作品といえばすぐにその名がよみがえってくると思います。そうです。その作品が1963年に発表された第11作「007は二度死ぬ」なのです。
この作品は、1967年にジェームズ・ボンドシリーズの第5作目として映画化されました。ここまでボンドを演じてきたショーン・コネリーはこの作品を持ってジェームズ・ボンド役から一度引退することになります。映画の舞台も原作通り日本となっており、映画はそのほとんどのシーンが日本ロケで撮影され、当時も大きな話題となりました。
(「007は二度死ぬ」映画ポスター 007-seris.com)
今回の本の題名「タイガー田中」とは、まさにこの作品における日本側の諜報機関(公安外事査閲局)の責任者である田中虎雄そのひとなのです。
田中虎雄は、その名前からか外国人からタイガーと呼ばれており、映画では当時、丹波哲郎が演じていました。そして、彼ら諜報員の訓練場となっていたのが姫路城でした。この映画では、東京オリンピック開催後のモダンな東京の姿も描かれていましたが、タイガー田中率いる諜報員たちは、忍者の伝統を受け継いでおり、日本の柔道に代表される武道や剣術、手裏剣などが登場し、やはり日本はタイピカルに描かれるのだな、と感じさせるものでした。
しかし、監督のルイス・ギルバートは、アクション映画も得意としており、007映画の魅力を存分に描いてくれました。ジェームズ・ボンドといえば、ボンド・ガールですが、日本の女優、若林映子と浜美枝が抜擢されました。特に浜美枝は、宿敵プロフェルドが拠点とする離島に潜入するために偽装結婚する離島の海女を演じており、映画の鍵を握る女性となります。
そして、ボンド映画を彩る新兵器。毎回、ボンドに新たな兵器を引き渡すのは、おなじみQと呼ばれる諜報員です。今回Qが持ち込むのは、一人乗りの小型ヘリコプター(正しくはオートジャイロト呼ぶそうです。)「リトル・ネリー」です。4つのトランクから取り出された「リトル・ネリー」にタイガー田中は「おもちゃのヘリコプターか?」と驚きますが、実は強力な装備を備えていたのです。
機首には、7.7ミリ機関銃が2門。機体の下に熱感知追尾式のミサイル2基を搭載。さらには、後方に向けた火炎放射器と煙幕発射装置、そして、落下傘投下方式の空中爆雷を備えているスーパーオ-トジャイロなのです。映画では、敵基地を飛び立った数機のヘリコプターとの空中戦が繰り広げられ、ボンドはオートジャイロの武器で敵を壊滅させるのです。
この日本を舞台にした007作品は、痛快でジェームズ・ボンドの魅力が詰まった楽しい映画でした。
今回ご紹介する本は、「007は二度死ぬ」の後日談となる物語なのです。
(文庫「タイガー田中」 amazon.co.jp)
【映画は原作に忠実なのか?】
さて、小説「タイガー田中」は、確かに「007は二度死ぬ」の後日談として、ジェームズ・ボンドを描く小説なのですが、それは、映画の後日談なのではなく、小説「007は二度死ぬ」の後日談です。
イアン・フレミングのボンド小説は、第12作目までとなりますが、そのストーリーは引き継がれる形となって進んでいきます。例えば、小説としての「007は二度死ぬ」は第11作目となりますが、そのストーリーは10作目の作品「女王陛下の007」を引き継ぐ形で語られていきます。
「女王陛下の007」で、ボンドはコルシカマフィアのボス、マルク=アンジェ・ドラコの娘であるトレーシーと恋に落ちて、物語の最後に結婚することになります。ところが、結婚式を挙げ、新婚旅行に向かう車が、悪の組織スペクターの首領であるプロフェルドに急襲され、トレーシーは銃撃によって殺されてしまうのです。
「007は二度死ぬ」でのボンドは、前作で妻を殺され、失意のうちに酒浸りとなり007としての仕事ができなくなってしまいます。そこで、上司のMが彼を立ち直らせようと、007の名称を7777号と改めて、日本が開発した暗号機「マジック44」の受け取りという任務のため、日本に送り込むのです。小説「007は二度死ぬ」はこうして始まることになります。
ところが、映画では、「女王陛下の007」よりも「007は二度死ぬ」が、先に制作されました。つまり、妻が死んだ話から話をつなげるわけにはいかないのです。(ちなみに次作の「女王陛下の007」ではほぼ原作通りのストーリーが展開しています。)
映画は、小説とはまったく異なる設定となり、プロフェルドは米ソの宇宙衛星をそれぞれ拉致して、米ソに戦争を引き起こさせようと企むことになります。そして、そのためのスペクターの基地が日本の離島に存在するとの物語となったのです。
ですので、今回の小説「タイガー田中」の主人公である田中虎雄は、丹波哲郎演じたタイガー田中とは異なり、原作通りに諜報機関の責任者らしい慎重かつ、大胆、さらに経験豊富な諜報員の長という設定になっています。
【タイガーとボンドの活躍 in NIPPON】
原作「007は二度死ぬ」では、九州の鹿児島から離れた黒島にあるプロフェルドの基地に侵入したボンドが、プロフェルドとの一騎打ちとなり、プロフェルドを倒します。しかし、そのときに受けた刀傷が原因で記憶喪失となり、黒島で偽装結婚したキッシー鈴木と結婚生活を送ることになりのです。そして、キッシー鈴木はボンドの子供を身ごもることになるのですが、ある日、太郎と名前を変えたボンドは新聞記事にあった「ウラジオストック」という地名に衝撃を受けます。そこには記憶を呼び覚ます何かがあるはずだ。太郎(ボンド)は、そこに行けば何かを思い出すはずだ、と感じてウラジオストックに向かうのです。
と、小説「007は二度死ぬ」はここで終わります。
そして、いよいよ今回の小説「タイガー田中」の幕が開くことになるのです。
(緊迫の舞台 神戸ポートタワー prtimes.jpより)
(以下、ネタバレあり。)
物語は、北海道の稚内港から始まります。
ここで登場するのは、公安外事査閲局の課長宮澤とその部下、斗蘭(トラン)となのる若い女性局員。そして、原作、映画にも登場した話し好きのオーストラリアの外交官ヘンダーソンです。3人は、埠頭に停泊している連絡船を監視しているのです。その連絡船は、ウラジオストックに向かう船。3人は、ウラジオストックに渡ろうとしている太郎ことジェームズ・ボンドがこの船に乗るとの情報を得て、張り込んでいるのです。
そして、ボンドが現れます。連絡船に乗り込むボンド。斗蘭はボンドを追いかけて連絡船に乗り込むや、その後を追って船内を駆け巡り、彼を追い詰めます。しかし、拳銃を彼に向けあきらめるように説得しようと語った刹那、突然、船内で爆発が起こり、そこに乗じたボンドは狭い窓から海へと身を翻します。それを追って斗蘭も海へと飛び込みますが、ボンドを取り逃がしてしまうのです。
小説は、いきなりアクションシーンから始まります。
斗蘭は、田中虎雄の娘。ロンドンで生まれ、父親とはほとんど一緒に暮らすことはなく日本に戻り、なぜか父親の部下となっているのです。ここから、田中虎雄は、記憶を失ったボンドが太郎として暮らしていた黒島で、夫婦であったキッシー鈴木と面談し、ここまでのいきさつが語られることになります。
ボンドは、プロフェルドと差し違えて死んだ。そう報告されていましたが、実は黒島で生きていたのです。ボンドが生きている、との情報はアメリカにもソ連にも伝えられ、アメリカは元CIAのフェリックス・ライター(「ドクター・ノオ」に登場した仲間)を日本に送り込みました。そして、ソ連の暗殺組織スラッシュは組織NO.2の暗殺者、アキム・アバーエフを、ボンド抹殺指令の下、日本に送り込んだのです。
そして、そこにコルシカマフィアのボス、マルク=アンジェ・ドラコが娘のとむらい合戦に参戦すべく日本にやってきます。
さらに、黒島の古城でボンドに殺されたと思われていたプロフェルドは、どうやって逃げたのか、田中たちの前に現れ、スペクターとして当時の総理大臣池田勇人あてに恐るべき要求を突きつけてきたのです。その要求を聞かなければ、大規模破壊によって多くの人命が失われる、との脅迫状を送りつけてきたのです。
記憶を失ったボンドを巡り、交錯する米ソ、ボンドはみつかるのか。そして、日本政府を脅迫するプロフェルドの本当の狙いは何なのか。そして、なぜか日本側の情報が米ソ、そしてプロフェルド側に漏れている、一体、それは何者の仕業なのか。
諜報合戦と、銃撃戦、そしてど派手なアクションシーン。小説は、息つく暇もなく次から次へと新たな展開を続け、我々はそこに巻き込まれていくのです。
こんなに面白い小説は、久しぶりに読みました。皆さんも、日本を舞台にした手に汗握るスパイ小説を味わってみてはいかがでしょうか。時間を忘れて読みふけること間違いなしです。
今年は、温暖化の影響か、寒暖の差が著しく感じます。皆さんも体調に気をつけて、どうぞご自愛ください。2025年もあとわずかです。皆さん、どうぞよいお年をお迎えください。
それでは皆さんお元気で、またお会いします。
〓今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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