池上彰 佐藤優 知的再武装のノウハウ

こんばんは。

  第46代のアメリカ大統領にジョー・バイデン氏が就任しました。

  歴史とは本当に面白いもので、人間の行ってきた行為とは必ず繰り返すという言葉を改めて思い出しました。というのも新大統領の就任式にトランプ氏が出席しないとの報道に関してのことです。アメリカは民主主義とフェアプレイを信条としてきた国なので、新大統領の就任式に前大統領が出席しないことがあったなどとは夢にも思いませんでした。ところが、152年前にもそうした出来事があったというのです。

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(離任式で演説するトランプ前大統領 yahoo/co/jp)

  調べてみると、新大統領就任式に出席しなかった大統領は、第17代アメリカ大統領のアンドリュー・ジョンソン氏でした。そのときの新大統領は共和党のユリ―シーズ・グラント第18代大統領です。今回は、再選を果たせなかったトランプ氏が自ら新大統領の就任式を欠席したのですが、152年前には、新大統領であったグラント氏が前大統領を嫌い、就任式に行く馬車にジョンソン氏を乗せなかったためにジョンソン氏は就任式に出席でしなかった、というのです。

  歴史は繰り返す、とはその通りなのですが、まったくおなじではなかったようです。

  アンドリュー・ジョンソン氏は、かの有名なリンカーン大統領の下で副大統領を務めており、リンカーンが暗殺されたために大統領に就任しました。ジョンソン氏は意外なことに奴隷制度を擁護する南部出身の民主党党員でしたが、南部の州が連邦政府から脱退することには反対で、そのためリンカーンに認められ、南部の代表と言う意味で副大統領となったようです。そのため、大統領に就任後も南部の奴隷制度を容認する政策を取り続け、アメリカ史上初の弾劾訴追を受けた大統領としてその名が残っているのです。

  ジョンソン氏は、あまりに南部の議員や制度を擁護したせいで、共和党員から弾劾を受ける羽目になったのですが、新大統領の就任式への欠席や弾劾訴追を受けた事実など、トランプ氏と共通点があることは間違いありません。

  当時は、南北戦争という内戦で、アメリカは真っ二つに分断されていました。その様は、トランプ氏の支持者への先導などから現代のアメリカが分断されている状況によく似ています。バイデン大統領は、その就任式で「unity」という言葉を繰り返し使い、分断されたアメリカ国民の融和と結束を語りかけていました。それは、まるで内戦によって二つに割れてしまったアメリカを再びひとつにまとめなければならなかった南北戦争の状況とよく似ています。

  ソビエト連邦が崩壊して冷戦が終わった時、世界中の人々は「自由と平等と民主主義」が世界に戻ってくると願いましたが、世界の多様性はそこには向かわず、様々な不幸を繰り返していく歴史が続いています。

  禍福はあざなえる縄のごとし、と言いますが、人間は幸福と不幸を繰り返して少しずつ進歩していく動物であることは間違いがないようです。

  我々は、物理的にも精神的にも弱い動物です。そのために、ともすれば強い力を持つ個人や団体に自らをゆだねて生きていく方が楽なのかもしれません。しかし、強い権力を持つ個人や勢力が、多くの人を幸福にするとは限りません。やはり、生きる権利を持つ個人個人が、最大公約数の幸せとは何かを真剣に考え、一人一人が自分の人生と他人の人生の両方を視野に入れて幸福を求めていく教養と意志を持つ必要があるのだと思います。

  その意味で、多様性を否定する社会は一部の人だけの幸せに甘んじる社会になるのだと思います。

  ところで、就任したバイデン大統領は、歴代大統領の中で最も高齢な78歳です。次期大統領選の時には82歳。そうした意味では、社会の高齢化を象徴する指導者と言っても過言ではありません。しかし、その穏健で様々な経験を経てきた政治家としての経歴が分断のアメリカには必要なのかもしれません。

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(就任演説を行うバイデン新大統領 asahi.com)

  翻って考えれば、我々の寿命もどんどんと延びています。このブログを始めた時、「人生楽しみ」の年齢は52歳でしたが、11年目に突入した現在は62歳となりました。

  小学校6年生の時にアポロ11号が人類初の月世界着陸に成功したとき、はじめて「21世紀」を意識しましたが、2001年の自分の年齢を計算してみると42歳。その頃は、42歳の自分など全く想像もできず、そんなに長く生きているのかさえも不確かでした。しかし、現実には、その日その日を生きてみると、気が付くとその年齢は単なる通過点でした。

  皆さんは、自分が60歳となった姿を想像できるでしょうか。人間50年と言われた安土桃山時代から、現在は人生100年時代へと変貌しつつあります。まだ、企業の定年は60歳ですが、自分のことを考えれば60歳は単なる人生の通過点に過ぎないと思えます。しかし、普通の会社員にとって仕事に生きることができるのは遅くても65歳までです。

  かつては、生きていることさえ稀であった人生の後半戦、我々はどう生きれば幸せなのでしょう。

  今週は、人生の後半生、どのように知的再武装をすべきかを語る対談集を読んでいました。

「知的再武装 60のヒント」

(池上彰 佐藤優著 文春新書 2020年)

【知的に生きるためのノウハウ】

  池上さんと佐藤さんの対談は、その汲めども尽きぬ知的な刺激が楽しく、新たな対談本が上梓されるたびに、つい読んでしまいます。

  今回も、お二人のお名前と「知的再武装」という佐藤優氏らしいその題名に惹かれて本を手に取りました。相変わらず、お二人の対談は軽妙洒脱で、なおかつ奥が深いものでした。

  これまで、お二人は歴史や世界情勢、はたまた新聞の読み方まで、さまざまな知的な対談本を上梓していますが、今回の対談は人生後半戦での知の磨き方に焦点を当てたトークとなっています。しかも、その作りは現代ではよく売れるノウハウ本のような体裁となっているのです。

(目次を紐解くと)

第一章 何を学ぶべきか
第二章 いかに学ぶべきか
第三章 いかに学び続けるか
第四章 今の時代をいかに学ぶか
第五章 いかに対話するか

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(「知的再武装対談」 amazon.co.jp)

  この本で語られる「知的再武装」とは、60歳になった人、または60歳に備えようとする人をターゲットに対話された本であり、まさに今の私がど真ん中という内容でした。実は、買った時にはあまり考えなかったのですが、題名通りに対談には60個のヒントが箇条書きにされていて、まさにノウハウ本の体裁を取っています。

  例えば、最初のヒントは、「ヒント1.45歳は重要な折り返し地点。45歳までに自分は何をやったのか。そのリスト作りをする。」、第二章では、「ヒント24.読書の間に眠たくなったり読めなくなったりしたら、腹式呼吸で音読してみる。本が読めなくなったら、オーディオブックなどを併用する。」など、かなり実践的なヒントが並んでいます。

  しかし、このブログを読んでくださる方なら知っていると思いますが、池上さんと佐藤さんの対談が、ただのノウハウ語りで終わるわけがありません。随所にお二人の体験やおすすめ本がちりばめられており、その見識にワンダーを感じる場面が次々に登場します。佐藤優氏は、「学ぶ」と言うことに関しては、45歳が一つの分かれ目だと主張します。45歳までは、新しいことにチャレンジすることがおすすめだが、45歳以降はそれまでに成し遂げた(または成し遂げようとした)事柄や築き上げてきた人間関係を充実させていく時期になると言います。その理由は、45歳を過ぎると新たなことを身に着けることや記憶することに膨大な時間を要することになるからです。

  池上さんは、記憶力は45歳を過ぎるとザルになると言います。それまでは、バケツのように記憶がたまるのに比べ、45歳を過ぎるとまるでザルのように記憶が消えていくのです。その語りの中で、佐藤さんが記憶力に関するエピソードを披露してくれます。

  佐藤さんは、ご存知の通り国策捜査によって背任と偽計の罪で拘置所に収監されました。そのときにボールペンを差し入れてもらうまでの8日間は筆記道具がなく、すべてを自分の記憶にとどめるしかなかったために記憶力が飛躍的に強くなったというのです。氏は一日56時間の取り調べの質問をすべて記憶して、翌日に弁護士に記憶したすべてを語ることを実践していたのです。記憶力は鍛えられたのですが、ボールペンが手に入ってメモするようになると、とたんに何も覚えていられなくなったそうです。

  この本には、こうしたお二人の体験談がたくさん詰まっておりまさに学ぶに持って来いなのです。

【おすすめ本も盛りだくさん】

  対談の中では、お二人が会話の中でぜひ読んでほしいというおすすめ本がたくさん紹介されています。

  特に今や古典となっている名作の紹介は面白い。特にお二人は昔読もうと志して読めなかった本の再読をすすめているのですが、古典の現代語訳や海外の古典の翻訳が新たになされており、その最新版がおすすめ、とのくだりは刺激的です。

  例えば、ドイツの哲学者ライプニッツの古典「マナドロジー」の岩波文庫版は新訳が発売されてやっと良い翻訳が発売されたとの語り。はたまた、岩波文庫の「太平記」の新たな現代語訳もおすすめだと言います。

  本の話となったとたんにお二人の話は盛り上がり、次々と本の名前が出現します。佐藤さんが最新の情報を語るための教養として「日本国勢図会」や「世界国勢図会」をあげれば、池上さんは、福沢諭吉の「学問のすすめ」と森鴎外の「舞姫」を語ります。そして、そのつながりから佐藤氏は「天は自ら助くる者を助く」で有名なスマイルズの「自助論」で切り返す、という具合です。

  この対談でおすすめの本を挙げ始まるとキリがなくなるので、ぜひ本書を紐解いてほしいのですが、特に興味深かった本をご紹介します。

  まずは、ヒトラーとレーニンの読書術に学ぼうという話です。文春文庫の「ヒトラーの秘密図書館」では、ヒトラーは、自分の机に遊個に備えてある本棚を常に入れ替えて、その時々に必要な本を常に読んでいたそうです。また、レーニンには、「哲学ノート」、「国家論ノート」などの本があり、レーニンは自分の読んだ本のエッセンスをノートにメモし、その横に「そうだ、その通り!」、「ずれてる!」などのコメントを記していたといいます。

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(「ヒトラーの秘密図書館」 amazon.co.jp)

  記憶力の話に及んだ時には、世界的なベストセラーとして、「KGBスパイ式記憶術」(水王舎)なる本を紹介しています。これは、インテリジェンス好きにはぜひ読んでみたい本です。

  さて、この対談集は確かにノウハウ本の体裁を取っていますが、このお二人の対談はそんな形式的な語りにとらわれることはありません。特に、第四章と第五章では、ヒントやノウハウなどと言う言葉は吹っ飛んでしまうほどに体験からくる面白い話がちりばめられています。

  人生後半戦の「学び」に興味のある方は、ぜひこの本を手に取ってください。人生をさらに充実させるヒントが満載です。


  緊急事態宣言が11の都府県に発出されてから2週間となりますが、新規感染者の数はなかなか減少に至りません。夜間だけではなく、なんとか昼間の人出をおさえていかなければなりませんが、テレワークができない現場仕事を止めることは難しそうです。この際、医療現場以外では、すべての国民が2週間の休暇を取得して、買い物以外は家に閉じこもることにしてどうでしょうか。思い切った自粛がなければ、重症患者の減少は実現しないのではないでしょうか。

  それでは皆さん、マスク・手洗い消毒を励行してお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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