手嶋龍一 佐藤優 ガザでは何が起きているのか

こんばんは。

  平和とは、何よりも大切な人類の財産です。

  第二次世界大戦が、アメリカが我が国に投下した2つの原子爆弾によって終結してから80年が過ぎようとしています。その原爆を開発したオッペンハイマー博士を描いた「オッペンハイマー」がアカデミー賞をはじめとした数々の章を受賞したのは記憶にも新しいところです。

  戦後、この地球上に、過去になかったほどの人類の繁栄をもたらしたのは、「平和」に他なりません。

  今日(日本時間9月20日)、アメリカメジャーリーグの名門、ドジャースの大谷翔平がメジャーリーグが始まって以来初の記録を達成しました。それは、1シーズンで一人の打者が達成したホームランと盗塁の記録です。これまで、40本塁打、40盗塁以上を達成した選手は、2006年シーズン、ナショナルズのソリアーノ選手(46本塁打、41盗塁)をはじめとした5選手のみでした。

  今年の大谷翔平選手は手術後のリハビリのため打者に専念しました。そして、126試合で40本塁打、40盗塁を達成し、前日のマーリンズ戦までに48本塁打、49盗塁を記録していました。今や誰もが、前人未踏のフィフティ・フィフティの達成を待ちわびていたのです。

  大谷選手は、勝てばチームのポストシーズンが決まるという重要な試合で、驚くような活躍を我々に見せてくれました。それは、6打数6安打、2盗塁、3打席連続ホームランという超人と言っても良い大活躍でした。この活躍で、大谷翔平は前人未踏のフィフティ・フィフティを1日にして達成したばかりか、その記録をフィフティワン・フィフティワンにまで伸ばしたのです。

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(対マーリンズ戦 SHOWTIME 第50号HR nikkei.com)

  ワールドチャンピオンを目指す大谷翔平選手の活躍から目を離すことが出来ません。

  また、今月は、9日に閉会したパリパラリンピックでも大きな感動を味わうことが出来ました。

  日本は、この大会で、金メダル14・銀メダル10・銅メダル1741のメダルを獲得しました。その感動はすべての選手の努力によるものですが、中でも車いすラグビーの悲願の金メダル、そして、車いすテニスでの小田凱人選手の金メダルには心を揺り動かされました。車いすラグビーは、リオ大会で同メダルを獲得。前回東京大会では、メンバー全員が金メダルを目標に血のにじむような鍛錬を重ねたにもかかわらず、銅メダルに終わりました。

  その悔しさを胸にさらなる鍛錬を続けた3年間。その先に待っていたのが前大会銀メダルだった格上のアメリカ代表を破っての金メダルだったのです。この感動は、すべての日本人の心を突き動かしました。

  こうして心から感動を味わうことができるのも、我々の世界に「平和」があるおかげであることは間違いありません。

  現在、この世界ではロシアが引き起こしたウクライナ侵攻に端を発したウクライナ戦争、そして、パレスチナの過激派組織ハマスによるイスラエルに対するテロ攻撃に端を発した、イスラエルによるハマス武装解除のための軍事作戦が平和を脅かしています。

  ロシアがウクライナに侵攻したのは、2022年の223日。その戦いはすでに2年半を超え、ウクライナでは25万人以上の人々が亡くなっています。イスラエルがハマスを武装解除するとして開始した軍事作戦は、2023107日のハマスによるイスラエル侵入テロが発端となっており、来月で1年を経ようとしています。この間にガザ地区でなくなったパレスチナの人々は3万人を超えていると言われます。

  何よりも、罪もない一般市民、無垢な子供たちが殺されている現実には心が引き裂かれます。

  いったい、何が意味も無い殺戮を続けさせているのか。

  それを知りたいと思い、前回に引き続いて出版されたインテリジェンスアナリスト、手嶋龍一さんと佐藤優さんの対談本に手を伸ばしました。

「イスラエル戦争の嘘」

(手嶋龍一 佐藤優著 中公新書ラクレ 2024年)

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(新書「イスラエル戦争の嘘」 amazon.co.jp)

【イスラエルとインテリジェンス】

  この本の題名には、出版社の、読者の気を引こうとする山っ気があふれています。第一に戦争とは国と国によって争われる戦いであり、イスラエルとパレスチナはお互いに」相手を国として認めていません。第二に、戦争とは宣戦布告があって始まるものですが、今回の戦いはハマスが起こしたテロ行為に対するイスラエルの報復がその発端となっています。そして、最も異なっているのは戦争が国の軍隊同士の戦いを指すのに対して、ハマスの戦闘員は国の軍隊ではなく、単なる地域の戦闘組織に過ぎません。

  そうした意味では、「嘘」との題名自体に嘘が含まれており、ある意味では自虐的なタイトル、と言っても良いのかもしれません。しかし、題名はともかく、その内容は読み応えタップリの必読書と言っても良いかもしれません。

  なぜか。

  それは、佐藤優さんが現在の日本の中で最もイスラエルに関して深い知識と理解を持っている日本人の一人だからです。

  1998年4月、イスラエルの対外諜報機関である「モサド」の長官として、長年インテリジェンスオフィサーとして活動していたエフライム・ハレヴィ氏が就任しました。ハレヴィ氏は、このブログでも紹介した「イスラエル秘密外交史 モサドを率いた男の告白」という自伝を上梓していますが、そのインテリジェンスオフィサーとしての哲学はまさにマスターといっても良い、現実味のある愛国心とヒューマニズムに貫かれています。

  佐藤優さんは、ちょうどこの時期に外務省の国際情報局で主任分析官を務めており、世界のインテリジェンス組織と人脈を深めようとしていたときでした。そんなときに、ハレヴィ氏と接する機会を得て、ハレヴィ氏の日本滞在の際にはその滞在中のすべての時間を一緒に過ごしたそうです。

  佐藤優さんは、1981年ソビエト連邦崩壊の時期、外務省の外交官としてモスクワに滞在。軍がクーデターを起こし、ゴルバチョフ書記長が拉致された際、いち早く日本政府にその生存を伝えたことで、インテリジェンスオフィサーの実力を認められたのです。

  おそらく、佐藤さんのインテリジェンスオフィサーとしての哲学と、何よりも人との信頼関係を活動の中心とする信念がハルヴィ氏の心に響いたに違いありません。

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(新潮文庫「イスラエル秘密外交史」 amazon.co.jp)

  その佐藤優さんが語る、イスラエルと、パレスチナの中でも原理主義的なハマスの持つ、内在的論理には深さと説得力があり、思わず引き込まれます。

  まず、イスラエルが持つ内在的論理ですが、それをよく表現するある言葉が紹介されます。「全世界から同情されて滅亡するよりも、全世界を敵に回しても生き残る。」その言葉は、イスラエルの国是と言っても良い、と佐藤さんは語ります。イスラエルを建国したのは、旧約聖書のモーゼ以来、世界中に点在したユダヤ人です。彼らは、数々の人種差別に見舞われてきました。その最も恐ろしい差別は、ナチスドイツが行ったホロコーストでした。

  ジェノサイド(大量虐殺)とは、ある民族を根こそぎ殺戮することがその代表とされていますが、ナチスドイツが行ったユダヤ人の隔離と虐殺は、民族殲滅を目的とするジェノサイドでした。ユダヤ人は、このホロコーストを経て、自らの国家設立を民族の悲願としました。イスラエルは、国連の決議によりパレスチナとともに国家となることを認められました。

  差別とホロコーストの歴史を背負ったユダヤ人は、民族の生存のために国家を守り通そうとの信念に貫かれているのです。

【帝国に翻弄された民族】

  一方のパレスチナの人々も歴史に翻弄された民族でした。

  パレスチナの人々はアラブ民族ですが、パレスチナ人はイスラム教の教徒が大多数を占めています。彼らは、オスマン帝国の元で、共存していましたが、領土を狙うイギリス、フランス、ロシアの思惑に翻弄されていきます。第一次世界大戦の時代、イギリスはオスマン帝国を解体して自らの植民地を広げようと、中東地域に触手を伸ばします。

  イギリスは、この時代3つの悪名高き約定を行います。まず、アラブ民族の諸国には、オスマントルコに反旗を揚げて戦えば独立を認める、とする「フサイン・マクマホン協定」を結びます。また、同時期にロシアとフランス、イギリスは、中東地区を3つに分けてそれぞれの国が委任統治すると取り決めた「サイクス・ピコ協定」を結びます。さらに、イギリスはユダヤ資本を味方につけるためにパレスチナの土地にユダヤ人が居住区を創ることを認めるという「バルフォア宣言」を発出するのです。

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(イギリスが送り込んだアラビアのロレンス moviewalker)

  まさに、すべての国、民族を味方につける三枚舌の外交を繰り広げます。第二次世界大戦後、困り果てたイギリスは、あろうことかこの地域の統治を国連の信託統治にゆだねてしまうのです。

  アラブ民族は、イスラム教徒としてその血筋を受け継いでいますが、教義を重んじるスンニ派として大きな領土を手にしたのがサウジアラビアです。そのスンニ派に追われた、ムハンマドの血筋を重んじるシーア派がヨルダンとイラクとなりました。

  パレスチナの人々は、元々現在のイスラエルの地に居住していましたが、イスラエルの悲願と国連の決議により共存せざるを得なくなりました。パレスチナの人々から見れば、世界中からユダヤ人がやってきて、自分たちが開拓して住んでいた土地を奪われることになったのです。

  パレスチナの人々を代表する組織体は、かつてアラファト議長が率いていたパレスチナ解放機構(PLO)です。1993年、PLOと当時のイスラエルの首相との間でイスラエルとパレスチナの共存を謳ったオスロ合意が締結されました。しかし、パレスチナの人々は、自らの居住区を強国イスラエルに制限され、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に限定され、閉じ込められたことに納得してはいなかったのです。

  パレスチナ解放機構は、パレスチナを代表する組織として国連で認められていますが、その内部には多くの組織が存在し、穏健的なファハタをはじめ過激なパレスチナ解放人民戦線などがひしめいています。

  ハマスは、その中でも最も過激なイスラム原理主義組織ですが、穏健になったPLOに失望していたガザ地区のパレスチナ人の間で、地区内の治安や衛生、文教などを統治して居住者の支持を得ています。しかし、彼らは原理主義組織であり、イスラエルの殲滅を目標としていることに間違いはありません。

  つまり、イスラエルとハマスは、互いの存在を否定する水と油のような存在なのです。

  この対談でお二人が心配しているのは2点です。ひとつは、イスラム原理主義であるもうひとつの組織ヒズボラとイスラエルが本格的な戦闘へと突入すること。ヒズボラの軍事力はハマスの比ではなく、間違いなく周辺国や欧米を巻き込む可能性があるといいます。もう一つは、核保有国イスラエルが世界から孤立した場合に、戦術核を使用する可能性があり、核の使用に歯止めがかからなくなることです。

  人々が殺し合う戦いは復讐の連鎖を呼び起こし、とどまることがなくなります。双方の内在する歴史や論理、さらに愛する人を奪われたことへの報復の連鎖を考えると、絶望感に襲われます。しかし、愛する人を殺された悲しみは連鎖を止めるための力になることもあるのではないでしょうか。さらに、平和であることの人類への恵みに想いが至るときに、戦いの停止が実現するのではないでしょうか。

  それは夢物語ではないはずです。

  皆さんもこの本で、戦いに内在する歴史を知ってください。戦闘停止への難しさとともにその尊さがよくわかること間違いなしです。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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手嶋龍一 佐藤優 ガザでは何が起きているのか

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  平和とは、何よりも大切な人類の財産です。

  第二次世界大戦が、アメリカが我が国に投下した2つの原子爆弾によって終結してから80年が過ぎようとしています。その原爆を開発したオッペンハイマー博士を描いた「オッペンハイマー」がアカデミー賞をはじめとした数々の章を受賞したのは記憶にも新しいところです。

  戦後、この地球上に、過去になかったほどの人類の繁栄をもたらしたのは、「平和」に他なりません。

  今日(日本時間9月20日)、アメリカメジャーリーグの名門、ドジャースの大谷翔平がメジャーリーグが始まって以来初の記録を達成しました。それは、1シーズンで一人の打者が達成したホームランと盗塁の記録です。これまで、40本塁打、40盗塁以上を達成した選手は、2006年シーズン、ナショナルズのソリアーノ選手(46本塁打、41盗塁)をはじめとした5選手のみでした。

  今年の大谷翔平選手は手術後のリハビリのため打者に専念しました。そして、126試合で40本塁打、40盗塁を達成し、前日のマーリンズ戦までに48本塁打、49盗塁を記録していました。今や誰もが、前人未踏のフィフティ・フィフティの達成を待ちわびていたのです。

  大谷選手は、勝てばチームのポストシーズンが決まるという重要な試合で、驚くような活躍を我々に見せてくれました。それは、6打数6安打、2盗塁、3打席連続ホームランという超人と言っても良い大活躍でした。この活躍で、大谷翔平は前人未踏のフィフティ・フィフティを1日にして達成したばかりか、その記録をフィフティワン・フィフティワンにまで伸ばしたのです。

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(対マーリンズ戦 SHOWTIME 第50号HR nikkei.com)

  ワールドチャンピオンを目指す大谷翔平選手の活躍から目を離すことが出来ません。

  また、今月は、9日に閉会したパリパラリンピックでも大きな感動を味わうことが出来ました。

  日本は、この大会で、金メダル14・銀メダル10・銅メダル1741のメダルを獲得しました。その感動はすべての選手の努力によるものですが、中でも車いすラグビーの悲願の金メダル、そして、車いすテニスでの小田凱人選手の金メダルには心を揺り動かされました。車いすラグビーは、リオ大会で同メダルを獲得。前回東京大会では、メンバー全員が金メダルを目標に血のにじむような鍛錬を重ねたにもかかわらず、銅メダルに終わりました。

  その悔しさを胸にさらなる鍛錬を続けた3年間。その先に待っていたのが前大会銀メダルだった格上のアメリカ代表を破っての金メダルだったのです。この感動は、すべての日本人の心を突き動かしました。

  こうして心から感動を味わうことができるのも、我々の世界に「平和」があるおかげであることは間違いありません。

  現在、この世界ではロシアが引き起こしたウクライナ侵攻に端を発したウクライナ戦争、そして、パレスチナの過激派組織ハマスによるイスラエルに対するテロ攻撃に端を発した、イスラエルによるハマス武装解除のための軍事作戦が平和を脅かしています。

  ロシアがウクライナに侵攻したのは、2022年の223日。その戦いはすでに2年半を超え、ウクライナでは25万人以上の人々が亡くなっています。イスラエルがハマスを武装解除するとして開始した軍事作戦は、2023107日のハマスによるイスラエル侵入テロが発端となっており、来月で1年を経ようとしています。この間にガザ地区でなくなったパレスチナの人々は3万人を超えていると言われます。

  何よりも、罪もない一般市民、無垢な子供たちが殺されている現実には心が引き裂かれます。

  いったい、何が意味も無い殺戮を続けさせているのか。

  それを知りたいと思い、前回に引き続いて出版されたインテリジェンスアナリスト、手嶋龍一さんと佐藤優さんの対談本に手を伸ばしました。

「イスラエル戦争の嘘」

(手嶋龍一 佐藤優著 中公新書ラクレ 2024年)

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(新書「イスラエル戦争の嘘」 amazon.co.jp)

【イスラエルとインテリジェンス】

  この本の題名には、出版社の、読者の気を引こうとする山っ気があふれています。第一に戦争とは国と国によって争われる戦いであり、イスラエルとパレスチナはお互いに」相手を国として認めていません。第二に、戦争とは宣戦布告があって始まるものですが、今回の戦いはハマスが起こしたテロ行為に対するイスラエルの報復がその発端となっています。そして、最も異なっているのは戦争が国の軍隊同士の戦いを指すのに対して、ハマスの戦闘員は国の軍隊ではなく、単なる地域の戦闘組織に過ぎません。

  そうした意味では、「嘘」との題名自体に嘘が含まれており、ある意味では自虐的なタイトル、と言っても良いのかもしれません。しかし、題名はともかく、その内容は読み応えタップリの必読書と言っても良いかもしれません。

  なぜか。

  それは、佐藤優さんが現在の日本の中で最もイスラエルに関して深い知識と理解を持っている日本人の一人だからです。

  1998年4月、イスラエルの対外諜報機関である「モサド」の長官として、長年インテリジェンスオフィサーとして活動していたエフライム・ハレヴィ氏が就任しました。ハレヴィ氏は、このブログでも紹介した「イスラエル秘密外交史 モサドを率いた男の告白」という自伝を上梓していますが、そのインテリジェンスオフィサーとしての哲学はまさにマスターといっても良い、現実味のある愛国心とヒューマニズムに貫かれています。

  佐藤優さんは、ちょうどこの時期に外務省の国際情報局で主任分析官を務めており、世界のインテリジェンス組織と人脈を深めようとしていたときでした。そんなときに、ハレヴィ氏と接する機会を得て、ハレヴィ氏の日本滞在の際にはその滞在中のすべての時間を一緒に過ごしたそうです。

  佐藤優さんは、1981年ソビエト連邦崩壊の時期、外務省の外交官としてモスクワに滞在。軍がクーデターを起こし、ゴルバチョフ書記長が拉致された際、いち早く日本政府にその生存を伝えたことで、インテリジェンスオフィサーの実力を認められたのです。

  おそらく、佐藤さんのインテリジェンスオフィサーとしての哲学と、何よりも人との信頼関係を活動の中心とする信念がハルヴィ氏の心に響いたに違いありません。

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(新潮文庫「イスラエル秘密外交史」 amazon.co.jp)

  その佐藤優さんが語る、イスラエルと、パレスチナの中でも原理主義的なハマスの持つ、内在的論理には深さと説得力があり、思わず引き込まれます。

  まず、イスラエルが持つ内在的論理ですが、それをよく表現するある言葉が紹介されます。「全世界から同情されて滅亡するよりも、全世界を敵に回しても生き残る。」その言葉は、イスラエルの国是と言っても良い、と佐藤さんは語ります。イスラエルを建国したのは、旧約聖書のモーゼ以来、世界中に点在したユダヤ人です。彼らは、数々の人種差別に見舞われてきました。その最も恐ろしい差別は、ナチスドイツが行ったホロコーストでした。

  ジェノサイド(大量虐殺)とは、ある民族を根こそぎ殺戮することがその代表とされていますが、ナチスドイツが行ったユダヤ人の隔離と虐殺は、民族殲滅を目的とするジェノサイドでした。ユダヤ人は、このホロコーストを経て、自らの国家設立を民族の悲願としました。イスラエルは、国連の決議によりパレスチナとともに国家となることを認められました。

  差別とホロコーストの歴史を背負ったユダヤ人は、民族の生存のために国家を守り通そうとの信念に貫かれているのです。

【帝国に翻弄された民族】

  一方のパレスチナの人々も歴史に翻弄された民族でした。

  パレスチナの人々はアラブ民族ですが、パレスチナ人はイスラム教の教徒が大多数を占めています。彼らは、オスマン帝国の元で、共存していましたが、領土を狙うイギリス、フランス、ロシアの思惑に翻弄されていきます。第一次世界大戦の時代、イギリスはオスマン帝国を解体して自らの植民地を広げようと、中東地域に触手を伸ばします。

  イギリスは、この時代3つの悪名高き約定を行います。まず、アラブ民族の諸国には、オスマントルコに反旗を揚げて戦えば独立を認める、とする「フサイン・マクマホン協定」を結びます。また、同時期にロシアとフランス、イギリスは、中東地区を3つに分けてそれぞれの国が委任統治すると取り決めた「サイクス・ピコ協定」を結びます。さらに、イギリスはユダヤ資本を味方につけるためにパレスチナの土地にユダヤ人が居住区を創ることを認めるという「バルフォア宣言」を発出するのです。

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(イギリスが送り込んだアラビアのロレンス moviewalker)

  まさに、すべての国、民族を味方につける三枚舌の外交を繰り広げます。第二次世界大戦後、困り果てたイギリスは、あろうことかこの地域の統治を国連の信託統治にゆだねてしまうのです。

  アラブ民族は、イスラム教徒としてその血筋を受け継いでいますが、教義を重んじるスンニ派として大きな領土を手にしたのがサウジアラビアです。そのスンニ派に追われた、ムハンマドの血筋を重んじるシーア派がヨルダンとイラクとなりました。

  パレスチナの人々は、元々現在のイスラエルの地に居住していましたが、イスラエルの悲願と国連の決議により共存せざるを得なくなりました。パレスチナの人々から見れば、世界中からユダヤ人がやってきて、自分たちが開拓して住んでいた土地を奪われることになったのです。

  パレスチナの人々を代表する組織体は、かつてアラファト議長が率いていたパレスチナ解放機構(PLO)です。1993年、PLOと当時のイスラエルの首相との間でイスラエルとパレスチナの共存を謳ったオスロ合意が締結されました。しかし、パレスチナの人々は、自らの居住区を強国イスラエルに制限され、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に限定され、閉じ込められたことに納得してはいなかったのです。

  パレスチナ解放機構は、パレスチナを代表する組織として国連で認められていますが、その内部には多くの組織が存在し、穏健的なファハタをはじめ過激なパレスチナ解放人民戦線などがひしめいています。

  ハマスは、その中でも最も過激なイスラム原理主義組織ですが、穏健になったPLOに失望していたガザ地区のパレスチナ人の間で、地区内の治安や衛生、文教などを統治して居住者の支持を得ています。しかし、彼らは原理主義組織であり、イスラエルの殲滅を目標としていることに間違いはありません。

  つまり、イスラエルとハマスは、互いの存在を否定する水と油のような存在なのです。

  この対談でお二人が心配しているのは2点です。ひとつは、イスラム原理主義であるもうひとつの組織ヒズボラとイスラエルが本格的な戦闘へと突入すること。ヒズボラの軍事力はハマスの比ではなく、間違いなく周辺国や欧米を巻き込む可能性があるといいます。もう一つは、核保有国イスラエルが世界から孤立した場合に、戦術核を使用する可能性があり、核の使用に歯止めがかからなくなることです。

  人々が殺し合う戦いは復讐の連鎖を呼び起こし、とどまることがなくなります。双方の内在する歴史や論理、さらに愛する人を奪われたことへの報復の連鎖を考えると、絶望感に襲われます。しかし、愛する人を殺された悲しみは連鎖を止めるための力になることもあるのではないでしょうか。さらに、平和であることの人類への恵みに想いが至るときに、戦いの停止が実現するのではないでしょうか。

  それは夢物語ではないはずです。

  皆さんもこの本で、戦いに内在する歴史を知ってください。戦闘停止への難しさとともにその尊さがよくわかること間違いなしです。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


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