ブルース・リウ 力強いピアノ協奏曲の魅力

こんばんは。

  石破総理が就任早々解散を決断しました。

  政治資金問題で信頼が失墜した自民党のしたたかさは、自民党の歴史の重さが形作ったものなのでしょうか。自民党総裁の任期を迎えて岸田前総理大臣は総裁選不出馬を表明し、新たな総裁選を演出。9人もの候補者が名乗りを上げ、高市さんと石破さんの決選投票の結果、石破さんが総裁の座を射止めました。そして、令和6101日、国会にて第102代総理大臣に指名されました。

  石破さんは、私よりも一つ年上の67才ですが、そのしたたかさは自民党の歴代政治家たちのDNAのおかげだと思います。

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(解散理由を語る石破総理 asahi.comより)

  完全に国民からの信用を失った政治資金規正法(自ら改正した法律)に違反した不記載の巨額な資金隠し。本来ならば、その時点で総辞職して国民に信を問うべきですが、そうすれば自民党は与党から野党に転落するのは明らかです。

  自民党のしたたかさは、総裁任期末まで引き延ばし、新たな総裁選挙で不信に対する弁明を行い、新たな総裁=総理によって解散総選挙を行う、という戦略そのものです。新任の総理大臣は一時的に高い支持率を得ることが出来、即座に解散することで高い支持率の元での衆議院選挙に臨むことが出来るのです。

  このシナリオを実現するためには、昭和の自民党の代表格である石破さんのしたたかさが必要だったのです。そう考えると、9人もの候補者はみそぎのための演出だったと考えるのはうがち過ぎでしょうか。

  一方の野党ですが、自民党の培ってきた政治的したたかさの前になすすべがありません。

  唯一の対抗馬は、かつて民主党政権時代に総理大臣として自民党と見事に対峙し、当時自民党総裁であった安倍晋三氏と党首討論で対等以上に渡り合った野田佳彦氏でした。

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(立憲民主党党首 元総理野田佳彦氏 yomiuri.comより)

  現在は紆余曲折を経て立憲民主党という政党となっていますが、野田さんは党首となり、今回の衆議院選挙では政権交代を訴えて野党勢力の先頭に立ちました。なんだか、時代が一回り戻ったように思えますが、今の自民党に対峙できる経歴を持つ政治家は野田さんしかいないといっても過言ではないと思えます。

  国民全体の総意を推定すると、自民党の持つ金権体質にはNOをつきつけたい気持ちは多々あれど、前回、まともな経済政策を実行できずに経済的低迷を招いた旧民主党の人たちに政権を任せるのは不安このうえない、というのが正直な気持ちなのではないでしょうか。2009年から4年間の民主党政権時代、東日本大震災とそれに伴う原発事故という悲劇にも見舞われましたが、国民は民主党政権に失望したといっても良いのではないでしょうか。

  しかし、時代は刻々と変化しています。

  世界では、成長を続ける国々もあれば、大災害にあえぐ国々もあり、さらに第二次世界大戦後、最も分断し、戦争までも惹起する国々があります。

  日本も今やこうした世界の荒波の中にいます。

  我々日本人も、この平和がほっておいても続くという太平楽な考え方は捨てた方が良いのではないでしょうか。日本の貴重な平和を維持し続けるためには、日本経済の発展と民主主義体制の成熟のために我々国民ひとりひとりが尽力し、世界に伍する高い見識を身につける必要があります。

  今回の衆議院議員選挙は我々の未来のために真に重要な選択なのです。

  にもかかわらず、どの候補者、政党を選択するか以前に、日本の投票率の低さは、そのまま日本人の教養の低さを物語っています。

  白票でも棄権票でも意思表示をすることが重要です。投票率の低さは日本人の意思表示能力の低さを体現しています。皆さん、民主主義平和国家日本の発展のために、ぜひ投票行動を取りましょう。期日前投票もあります。ぜひとも清き一票を投じようではありませんか。

  さて、政治の話はおいて、今日は2021年のショパン国際ピアノコンクールに優勝し、現在、日本を巡るツアーを行っているピアニスト、ブルース・リウをご紹介しようと思います。

【ブルース・リウ氏のプロフィール】

  ブルース・リウ氏は、1997年生まれの27才。中国系カナダ人のピアニストです。

  2021年のショパン国際コンクールといって思い出すのは、このコンクールで第2位を受賞した反田恭平氏と同第4位となった小林愛実さんのダブル受賞です。日本人のあるあるですが、このときのダブル受賞はあらゆるマスコミで取り上げられ、受賞したお二人はすっかり人気者となりました。ところが、優勝者のブルース・リウ氏の話題は我々の記憶にはほとんど残っていません。

  このコンクールで優勝したブルース・リウ氏は、BBCマガジンで「息をのむような美しさ」と絶賛されました。彼のインタビューを読むと、その素顔は「自由な若者」です。彼は、中国人の両親の元、パリで生まれ、カナダのモントリオールで育ちました。ピアノは、8才から始め、モントリオール大学では、アジア人として初めてショパンコンクールで優勝したダン・タイ・ソン氏に師事しているそうです。

  ピアノは人生の様々な選択肢の一つと語っていますが、優勝後には、クラシックの名門ドイツ・グラモフォンと契約、世界を股にかけて演奏活動を行っており、ピアノ以外の時間はあまりなさそうです。好きなピアニストとして、ミケランジェリとキース・ジャレットをあげているのもまたユニークです。

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(ブルース・リウ チャイコフスキー「四季」amazon.co.jp)

  また、ウィキペディアによれば、ブルース・リウというのは芸名で、自らがブルース・リーのファンで、親しみやすい名前を選んだとのこと。自分が子供の頃からブルース・リーに似ているといわれていたこともひとつの動機だったと語っています。発想が自由ですね。

  この10月、フランクフルト放送交響楽団が音楽監督で指揮者のアラン・アルティノグル氏とともに来日しましたが、そのうちの4日間、ピアノ協奏曲のピアニストがブルース・リウ氏でした。

  初日1015日は、サントリーホールで演奏曲は、ベートーベン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、マーラー 交響曲第5番。翌16日は大阪ザ・シンフォニーホール、18日は愛知県芸術劇場、19日は所沢文化センターミューズ アークホール、という日程です。16日から19日までの演奏曲は、ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、ベートーベン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ラベル編曲 ムソルグスキーの「展覧会の絵」となっていました。

  ちなみに、フランクフルト放送交響楽団とアラン・アルティノグル氏は、その後20日と21日に気鋭のヴァイオリン奏者 庄司紗矢香さんとブラームスのヴァイオリン協奏曲をプログラムに公演を続けました。(こちらも聴きたかったなぁ・・・)

  私が行った公演は、1019日の所沢ミューズでした。

【ブルース・リウ 「皇帝」の素晴らしさ】

  所沢ミューズのアークホールは、音響効果が素晴らしく、世界の名オーケストラが来日しており、その響きは天下一品です。今年、ジャズピアニストの小曽根真さんが所沢ミューズで初めてソロコンサートを行ったときにも、開口一番ピアノを指で鳴らしながら、「本当にこのホールの響きは素晴らしい。また来たいです。」と語っていたのが印象的でした。

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(所沢ミューズ公演 ポスター)

  開演時間の14時過ぎ、満員の聴衆の拍手に迎えられ、フランクフルト放送交響楽団の面々が舞台に登場します。驚いたのは、その人数の多さでした。舞台には所狭しと椅子が並べられ、舞台の奥には大きなハープが2基、さらに大太鼓やドラ、鐘までもが並んでいます。そして、楽団員の登場、第1ヴァイオリン17名、第2ヴァイオリン15名など、総勢109名が舞台を埋め尽くします。奥には、大きなグランドピアノが置かれています。

  いつもオーケストラの音を聴くと思うのですが、なぜ、ヨーロッパで演奏する交響楽団の音色はあれほど美しいのでしょうか。

  昔は、ヨーロッパの空気と日本の空気が異なるせいで音が違うのかと思っていました。しかし、同じ日本で、同じ所沢ミューズで聴いても、やはりヨーロッパのオーケストラが奏でる音は日本のオーケストラの音よりもなめらかで響きも良く、美しいのです。

  フランクフルト交響楽団も例外ではありませんでした。「マイスタージンガー」はワーグナーの数ある楽曲の中でもとりわけワーグナー的な壮麗さを備えた楽曲です。そこで奏でられる弦楽器のまるでビロードのようになめらかで輝くような響き、また管楽器の天空に抜けていくような芳醇な響きは、まさに唯一無二の美しい響きでした。まるで、大寺院で奏でられるような荘厳な序曲は、魔法のように我々の心をとらえたのです。

  曲が終わると、ホールが揺れるほどの大きな拍手が指揮者と109名の団員に送られました。

  ワーグナーが終わると、一度オーケストラは退場し、大きなグランドピアノが後方から運ばれて指揮台の前へと据えられました。ピアノの横には、FAZIOLIのロゴが印刷されています。ブルース・リウは、ショパンコンクールでも始めてファツイオリのピアノを使用して優勝したピアニストでした。そのピアノが所沢にもやってきたのです。

  楽団の登場に続き、指揮者のアランとブルース・リウが登場します。万雷の拍手が収まると、ブルース・リウはピアノに向かい、指揮者がタクトを構えます。

  ピアノ協奏曲第5番「皇帝」の第1楽章を飾る、荘厳な管弦楽がホールに鳴り響きます。そして、その音響の余韻が鳴り止むと同時に、ブルース・リウの指が鍵盤におろされて、流麗なピアノの響きがホールを駆け上がっていきます。これぞ、ベートーベンだ!。

  これまで、数え切れないほど、「皇帝」を聴いてきました。

  家では正月には必ず「皇帝」が流れて、1年が始まります。クラシックをこよなく愛する父親の愛聴盤は、ウィーンフィルをイッセルシュテットが指揮し、バックハウスがピアノを弾いた名演奏です。さらにその1枚と肩を並べるのは、ベルリンフィルをライトナーが指揮し、ウィルヘルム・ケンプがピアノを弾いた名盤です。ウィーンフィルとバックハウスの演奏は、まさに王宮の広大な鏡の間を思わせるようなきらびやかでエモーショナルな演奏。そして、ベルリンフィルとケンプの演奏は、哲学的で思索的な建造物を思い起こさせるような知性あふれる演奏です。

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(ウィルヘルム・バックハウス「皇帝」amzon.co.jp)

  フランクフルト放送交響楽団とブルース・リウの演奏は、ライブで味わうダイナミズムを全身で感じながらも重厚な弦の音響と、しなやかな管楽器の音響と、ピアノの力強くリリカルな音が共鳴し、一体となって、唯一無二の世界を繰り広げていきます。

  この曲の醍醐味は、それぞれの楽章が奏でる緩急と、作品全体の緩急が構築する、荘厳な世界の味わいです。ホールに響き渡るオーケストラの音から、ピアノのピアニッシモに移る瞬間、若きピアニストの指が鍵盤の上に降りおろされて奏でられる音と、そこに生まれる沈黙は、ピアニストの感性を感じさせて、唯一無二の感動を生み出します。

  第2楽章の美しく、緩やかに流れる旋律は、まさにブルース・リウの個性が表現されるリリカルな主題と再生部で、思わず瞳を閉じてしまします。その緩やかな旋律が沈黙すると、その音は第3楽章へと切れ間目なく続いていくのです。そして、第3楽章につながる音と音の間に生まれる沈黙が、ピアニストの個性を際立たせます。

  わずかに静けさに包まれた次の瞬間、6/8拍子の強烈な旋律がピアニストの指の動きとともにホールに響き渡ります。

  「皇帝」は、ベートーベンの「傑作の森」と呼ばれる時期の作品であり、彼の代表作でもあります。この作品はナポレオンがフランス軍を率いてウィーンに攻め込んできた時期に書かれました。王侯たちが慌ててウィーンから避難する中、ベートーベンが地下に立てこもって作品を作り上げたと言われます。第3楽章のテンポに満ちた流麗な旋律は、ベートーベンが何者にも犯されることなく、自らの芸術を守り抜いた精神を体現する音楽だったのです。

  ブルース・リウの演奏は、50年前の巨匠たちの演奏とは異なり、その緩の部分のインプロビゼーションと、急の部分のスピード感が個性的で、現代が解釈したベートーベンと言っても良いのではないでしょうか。

  今回味わったコンサートは、これまでに無い感動を与えてくれました。あまりの感動に、会場でCDを購入し、ブルース・リウ氏のサイン会に参加してしまいました。そのりりしい姿に向かってお礼を言うと”Thank you”と笑顔で握手してくれました。ブルース・リーに似た優しい笑顔がとても印象的でした。

  音楽は我々に心からの感動を与えてくれる素晴らしい芸術です。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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