こんばんは。
気候もようやく秋にさしかかりましたが、異常気象との言葉はすでにインパクトを失いつつあります。温暖化はもちろんですが、雨は豪雨、さらに台風も毎年迷走を繰り返しています。かつて、日本には「二百十日」という言葉があり、年の初めから210日目には台風がやってくるので、その前に稲を刈り取る必要があるという、ことわざでした。今や「死語」になりつつあります。
この頃は、毎年気持ちを新たにして天災に備えることが必要です。
ところで、秋といえば「食欲の秋」、「スポーツの秋」、「読書の秋」、「芸術の秋」、「旅行の秋」と様々な楽しみにあふれていますが、皆さんはどんな秋をお過ごしでしょうか。
読書ブログを書いている身としては、「読書の秋」といいたいところですが、サックスを習うようになってからは「音楽の秋」のウエイトが年々増してきています。
還暦になってから楽器を始めると、知識も技術も習得するのに時間がかかります。サックスで難しいのは、音程が「移調楽器」であることです。通常、音楽は「ドレミファソラシド」=C(ド)から始まる音階が基本となっています。現代の音楽は、17世紀にはじまった「平均律」と呼ばれる音律で成り立っています。その特徴は、半音階を基本にして、「ド」から始まっても「ド#」や「レ」から始まっても同じメロディに聞こえるようにできている点です。
(愛機 Canonball-T5M)
この「平均律」のおかげで、我々はカラオケにいって自由に「キー」を変えても、同じメロディで歌うことができるのです。
サックスという楽器は、この平均律後に生まれた楽器です。通常、ピアノなどの楽器は「ド(C)」を基本にして音を奏でますが、「移調楽器」は基本の音が「ド」ではないのです。テナーサックスは、基本となる音が「シ♭(B♭)」です。つまり、我々が習う音階、「ドレミファソラシド」は、テナーサックスでは、「レミファ#ソラシド#」と吹かなければ同じメロディにならないのです。
たとえば、皆さんおなじみの「かえるの歌」=「ドレミファミレド(かえるの歌が♪♪)」をサックスで吹くと、「レミファ#ソファ#ミレ」と吹かないと同じ音階にならないのです。ということは、セッションで他の楽器と一緒に音楽を奏でるためには、ピアノの楽譜を一音あげて吹かなければなりません。音階の基本は半音階ですので、一音上げるときには、必ずフラットとシャープがオタマジャクシに付随することになります。
学生の頃から永年訓練してきた人たちは、こともなげに一音上の音に変換して演奏するのですが、知識が先に立ってしまう還暦越えのおじさんには、なかなか体にしみこませるのが難しい作業なのです。まぁ、とにかく練習するしかないのですが・・・。
特に、数え切れないほど聞いてきたお気に入りの音楽をサックスで吹こうとすると、ミミコピ(聞いて音ををコピーする)ではピアノ音階で音が聞こえてしまいます。例えば、数え切れないほど聞いたオールマンブラザースバンドの「エリザベスリードの想い出」。そのサビは、「ミーソシソラッソミレドラ」とギターがうなるのですが、テナーサックスでは、「ファ#―ラド#ラシッラファ#ミレシ」と吹くことになるのです。
(名作 ABBAND「AT FILLMOIRE EAST」 amazon.co.jp)
初めての発表会でこの曲を吹いたのですが、一切、楽譜なしで、耳で音を探して吹いたので、バックのピアノの先生やドラムの先生が驚いていました。知らないということは何よりも強いですね。
還暦まで音楽は「ドレミファ」で聞いていたので、それを吹くのには「レミファ#ソ」と吹く必要があるのだとわかったときには、これまでの耳を疑わなければならなくなり、困りました。未だに困っています。音楽とは、まるで魔法のようなものですね。
さて、こんな話をもちだしたのは、今週ご紹介する本が音楽本だからなのです。
「僕の音楽キャリア全部話します」
(語り:松任谷正隆 文:神館和典 新潮社 2016年)
【松任谷正隆、知っていますか】
日本の現代ポップスが好きな方にはおなじみの名前ですが、「松任谷」というとユーミン(松任谷由実)を思い出す人が多いのではないでしょうか。それもそのはず、松任谷正隆さんは、ユーミンの夫なのです。その本業は、音楽プロデューサー、アレンジャー、作曲家、演出家と多彩です。
この本では、そんな松任谷正隆さんのこれまでの音楽人生が語られています。
ちょっと驚いたのは、年齢でした。その生まれは1951年だそうなので、今年で73歳になります。確かに音楽番組を見ていると、随所で、松任谷塾で薫陶を受けたという話が飛び出します。例えば、斉藤由貴さんの楽曲編曲、大黒摩季さんや今井美樹さんのプロデュース、一青窈さんのプロデュースなどで有名な武部聡志さん、ポルノグラフィティの作曲、編曲、プロデュースやいきものがかりのサウンドプロデュース、編曲で知られている本間昭光さんは、松任谷正隆さんから今の仕事の基礎を教えてもらったと語っています。
武部さんや本間さんは、キーボー-ド奏者としてバックバンドで演奏し、バンドマスターとしても大活躍しています。
そうした、J-POPの歴史を支えてきた音楽人の礎とも言えるのが松任谷正隆さんです。
では、この本の目次を紐解いてみましょう。
はじめに
第1章 2016年の音づくり
第2章 音楽的暗黒時代
第3章 アレンジャー本格化時代
第4章 エンタテインメント路線開拓期
第5章 デジタル混迷期
第6章 今も、そしてこれからも音楽をつくり続ける
インタヴューを終えて 松任谷正隆
(「僕の音楽キャリア全部話します」 amazon.co.jp)
第一章は、この本が上梓された時期とほぼ同時にリリースされた、松任谷由実の38枚目のオリジナルアルバム「宇宙図書館」の制作話が語られています。
この本は、松任谷正隆さんのインタヴューが元となっているのですが、本として成立するためには、インタヴュアーの質問や本になるための構成が重要となります。
本の裏扉にインタヴュアーと構成者の名前が書かれていました。その名は、神館和典。神館さんといえば、音楽ライターとして、様々な有名ミュージシャンとのインタヴュー本を掲載、上梓しており今回の本も彼のキャリアが支えているんだ、と改めて感じました。
拙ブログでご紹介した本は、「25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏」(幻冬舎新書 2008年)、「音楽ライターが、書けなかった話」(新潮新書 2005年)の2冊ですが、それぞれジャズ、ロックのエモーショナルなミュージシャンの話が満載で面白い本でした。(リンクを張りましたので、興味のある方はどうぞ。)神館さんのインタヴューは、ミュージシャンの個性に迫る独特の質問から、我々にワンダーを感じさせる面白いものでした。
第一章では、神館さんが興味深い質問から、アルバム「宇宙図書館」のネーミングからアルバムコンセプト、そして制作秘話までくまなく話を拾ってくれています。そして、松任谷正隆さんのプロデューサーとしての音に対するこだわりを聞き出しています。
【松任谷ミュージックのこだわり】
荒井由実さんがアルバム「ひこうき雲」で1973年にデビューしました。この作品と次の「MISSLIM」でバックを奏でたのは、キャラメル・ママというバンドでした。メンバーはベースが細野晴臣、ギターが鈴木茂、ドラムスが林立夫、そしてキーボードが松任谷正隆でした。今考えると、後に日本のPOPS界を引っ張っていくメンバーがバックを務めていたのです。
近年、ジブリ映画で荒井由実さんの楽曲が主題歌になっています。
「ひこうき雲」は。2013年に宮崎駿さんの映画「風立ちぬ」で主題歌となり、リバイバルヒットとなりましたが、当時、高校2年生で友人と長野に遊びに行ったときにこのアルバムのことを知り、その音楽の新しさにすっかりとりこになりました。そのバックで松任谷正隆さんがキーボードを弾いていたのを知るのはずっと後のことです。
(荒井由実「ひこうき雲」 amazon.co.jp)
この本では、このときの録音のことが語られています。
由実さんは、その後に松任谷正隆さんと結婚するのですが、このアルバムの録音のときの二人のエピソードは有名です。ある朝、スタジオに来た由実さんが弾くピアノの上に、由実さんの好きなダリアの花が一輪おいてあった、とのお話です。この花をおいたのが松任谷正隆さんだったのです。実は、このときには由実さんの歌唱が不満だったディレクターは、由実さんに歌唱レッスンをさせたのですが、ダリアに込めたメッセージは「今のままで自然に歌う方がよい」という思いだったそうです。
このアルバム以前。松任谷正隆さんのミュージシャンデビューは、吉田拓郎さんのバックミュージシャンだったといいます。吉田拓郎さんといえば、「結婚しようよ」が爆発的なヒットを記録し、一躍有名スターとなったのですが、この曲が正隆さんのデビューでした。正隆さんに声をかけたのが、サディスティック・ミカバンドの加藤和彦さんだったというから、これまた驚きです。
この後、荒井由実のアルバム、ステージ、そして吉田拓路のライブバンドが、正隆さんのキャリアを形作っていくことになります。とくに、吉田拓郎のバンドマスターとして伝説のつま恋コンサートライブを行い、後ろから夜明けの拓郎の後ろ姿を見たときのエピソードは感動的です。ぜひこの本で味わってください。
この本では、その後、現在に至るまでの素晴らしいキャリアが語られていきます。
神館さんの質問は見事で、正隆さんは次々とその音の秘密を語っていきます。最高だと思っているアルバム、どうしても一緒に演りたかった3人のミュージシャン。ドラムスは、スティーヴ・ガッド派よりもハービー・メイソン派という話。どの話をとっても興味深い話ばかりです。
現在に至るまでの話は、すべてが面白い話ばかりです。
この本を読んで、初めて感じたことがひとつありました。
これまで、ミュージシャンを語った音楽本を読んだときに、最も惹かれるのは、自分がそのミュージシャンにはまった時代の話なのですが、この本では違いました。
ここ最近、ユーミンのアルバムはほとんど聞いていないし、ライブも10年以上見ていません。しかし、正隆さんの「自分の最高作は常に次の作品だ。」という言葉には、アーティストにとって最も大切なのは「今」であることが感じられ、感動しました。正隆さんは、自らのことを難しい人間だといいます。それは、自分の意見が受け入れてられない現場は耐えられない、との言葉にあらわれています。しかし、彼を受け入れてくれるユーミンや吉田拓郎が彼のキャリアをつくってくれた。やっぱり、人生は出会いなのです。それが、この本からは感じられるのです。
そこには、一つの人生を感じることができます。
さて、10月も下旬を迎え、季節は一気に晩秋から冬へと走って行きます。朝晩の冷え込みは一段と厳しくなりそうです。寒暖差に気をつけて、どうそご自愛ください。
それでは皆さんお元気で、またお会いします。
〓今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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