女性ピアニストが語るピアノソナタの魅力

こんばんは。

 早いもので、今年も師走がやってきました。

 今年は、コロナの1年でしたが、コロナ対策を打ち続けた菅総理が退陣し、岸田総理が誕生。さらに解散総選挙によって、自民党が選挙に勝つ、第二次岸田政権が誕生しました。この選挙では、若者たちの投票率を高めようと、様々な試みが行われましたが、結局投票率は55.93%と戦後3番目に低い数値になりました。国民の民主主義に対する関心の低さには絶望します。

 ただ、今回の選挙は、大阪で行政改革を行った実績のせいか、日本維新の会への投票数が大きく増加し、国政でも日本維新の会が野党第二党に躍進したことは、国民が「改革」に対して意識をして投票したあかし、と少し安心しました。

 また、今年はオリンピックの開催のおかげでプロ野球は中断があり、11月の末まで日本シリーズが行われ、野球ファンを熱狂させてくれました。

 永年のスワローズファン(私のこと)にとっては、野村監督、若松監督に続き、新たなヒーロー高津監督が日本一を勝ち取り、感無量です。

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(宙に舞うスワローズ高津監督 mainichi.jp)

 今年は、セリーグ、パリーグともに昨年最下位であったチームが優勝し、実力が拮抗した東京ヤクルトスワロースとオリックスバッファローズの対決となりました。6試合のうち5試合が1点差のゲームとなり、すべての試合が手に汗を握る展開で、テレビの野球中継から目が離せませんでした。

 下馬評では、沢村賞を受賞した四冠王の山本投手と活きがいい宮城投手を擁するバッファローズが有利と言われていましたが、そこは野村監督の下、胴上げ投手となった高津監督が率いるスワローズ。投手の心をつかむ起用法で、すべての試合を大接戦へと持ち込み、最後には粘りで優勝をもぎ取りました。奥川投手、高橋投手という若いピッチャーの力、石川投手、小川投手というベテラン投手の力、そして、中継ぎ、リリーフ陣、清水投手、石山投手、スワレス投手、マクガフ投手とすべての投手の力を結集し、バッファローズに立ち向かった采配はみごとでした。

 心から感謝と祝福を送ります!

 さて、コロナ禍で人が集まる音楽活動はすべて自粛となっていましたが、この秋以降、新規感染者が劇的に減少し、音楽界でも感染対策を講じたうえでライブやコンサートが復活してきました。そんなうれしい日常の中で、今週はロシアの女流ピアニストが語ったピアノソナタの魅力満載の本を読んでいました。

「ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ」

(イリーナ・メジューエワ著 講談社現代新書 2017年)

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(ピアニストが語る名曲たち amazon.co.jp)

【音楽ライブは生音が一番】

 10月から11月にかけて、ついに待望海外からの生音を体験してきました。

 まず、10月にはクラシックの大御所指揮者のコンサート。

 このブログでも何度か紹介していますが、1980年代からNHK交響楽団を指揮して現在は桂冠名誉指揮者となっている指揮者ブロムシュテット。今年、94歳になるマエストロは、コロナ禍の最中、日本の音楽ファンにリモートで必ず日本に戻って皆さんに遠賀気宇をお届けする、と約束してくれていました。

 そして、今年の10月、その約束がついに現実のものとなったのです。

 10月30日(土)1400.所沢ミューズのアークホール。満員の聴衆がかたずをのむ中、ブロムシュテット氏は大きな拍手に迎えられて舞台に現れ、颯爽と指揮台まで歩み、我々に一礼すると登壇しました。そして、楽団の空気が一瞬張り詰めると指揮棒を持たない手刀のようなブロムシュテットの右手が流れるように振り下ろされます。

 1曲目は、指揮者のふるさとともいえるスウェーデンの作曲家ステンハンマルの「セレナード 作品31」です。プログラムを読むと、ステンハンマルはワーグナーの音楽に影響を受け、シベリウスの交響曲に衝撃を受けてスウェーデンの文化を受け継ぐ曲を書いた、とされています。その美しい旋律は、ブロムシュテットによってさらに洗練され、あるいは力強さを増して我々の心をつかみます。印象としては、大好きなブラームスの豊潤さを秘めた心が昂揚する旋律がとても印象的な演奏でした。

 休憩を挟んで、この日の第2部は、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」が披露されました。

 かつて、フルトヴェングラーをはじめとしたマエストロたちは、ベートーヴェンの交響曲に哲学的な重厚さとゆっくりと昂揚していく感情をこめて表現していましたが、ブロムシュテットは、まったく新しいベートーヴェンを聴かせてくれました。

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(ブロムシュテット氏「運命」ポスター)

 ブロムシュテット氏はインタビューの中で、新しいベートーヴェンの創造について、近年新たな研究によって出版されたベートーヴェンの楽譜には、メトロノームによる演奏速度の指定が入っているというのです。演奏速度の指定は、かつて言葉によるものの実でした。例えば、有名な第9交響曲の第2楽章では、「アダージョ・のン・モルト・カンタービレ」と指定されていますが、この意味は、「やや遅く(ゆるやかに)、歌う様に」となります。しかし、この言葉は受け取る側によって速度が変わってしまいます。

 しかし、メトロノームの速度が指定されていれば、速度は客観的に定まります。第9の第2楽章の速度は、♪=60とされているのです。メトロノームの発明は1817年であり、ベートーヴェンは、自分の以前書いた楽譜も含め、このメトロノーム速度を記入していたというのです。ところが、この速度は曲によってあまりに早すぎるケースもあり、今でも論争が続いています。

 ブロムシュテット氏は、楽譜はバイブルと考えており、この速度を再演することにしたのです。

 その「運命」は、これまでの店舗とは異なり、よりソリッドで小気味の良い演奏でした。この指揮のすごいところは、透き通るような音による演奏にもかかわらず、この曲の持つ人生を謳う尊厳な深みがまったくそこなわれていないところです。第3楽章から切れ間なく続き第4楽章。「運命が戸を叩く」と呼ばれる部分からラストに向かって流れるパートでは、驚くようなスピードとテンポでまさに新鮮な「運命」が我々の心に響き渡ったのです。

 その感想は、言葉では言い表すことができない素晴らしさでした。

 ブロムシュテット氏は、演奏後に割れんばかりの拍手にこたえ、何度も何度も舞台に登場し、スタンディングオベーションに手を振っていましたが、横で手を添えて支えるコンサートマスターのマロさんの姿も併せて、その真摯な姿にこれまた深い感動を覚えました。

 本当に生音で味わうコンサートは何物にも代えがたい体験です。

 また、11月から12月にかけて、プログレッシブロックの生きる証言者と言ってもよい、キングクリムゾンが来日し、たっぷりとそのライブ音を日本に響かせてくれました。

 1969年にあの伝説のアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」以来、ロックファンにはおなじみのキングクリムゾンですが、その中心であるギタリスト、ロバート・フィリップも早や75歳となります。しかし、2013年以降、新生キングクリムゾンは、今は亡きグレッグ・レイクやジョン・ウェットンに匹敵するボーカリスト兼ギタリストのジャッコ・ジャクジクという素晴らしいボーカリスト、かつての盟友でサックスフォン奏者のメル・コリンズ、ベーシストのトニー・レヴィン、さらには3人のドラムスを擁する超技巧派音楽集団となって活動しているのです。

 このメンバーとなってから、日本には2015年、2018年と来日してきましたが、今年、3度目となるツアーが実現したのです。コロナウィルスによる延期をものともせず、11月下旬から12月上旬にかけて日本全国で「MUSIC IS OUR FRIEND JAPAN 2021」と銘打たれたが行われました。そして、1128日(日)、国際フォーラムでのライブに参加してきました。

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(LIVE「MUSIC IS OUR FRIEND 2021」)

 今回のバンドのコンセプトは、これまでキングクリムゾンが創造してきた数々の作品を、当時以上に充実した技術と音響でより強力に演奏するというものです。

 今回のライブは、メタルキングクリムゾンのもっとも初期の曲、「レッド」からはじまります。あのソリッドにうねるロバート・フィリップのギター音が会場に響き渡ると、観客は一気にクリムゾンの世界へと引き込まれていきます。そこからは、感激の連続。「エピタフ」、「クリムゾン・キングの宮殿」、「アイランド」、「太陽と戦慄Ⅱ」、「堕落天使」、「再び赤い悪夢」とその名曲を底知れぬパワーで我々に披露してくれたのです。

 そのパフォーマンスは、休憩をはさんで2時間にもわたり、そのすばらしさに圧倒されました。

 コロナ禍の中、2年近くも封印されていた生音がよみがえりました。この2つのライブは音楽がいかに人々に勇気を与えてくれるかを改めて教えてくれました。

【ピアノのすばらしさはピアニストに聞け】

 そんな音楽好きがいつもの本屋さんで芽切あったのが今回ご紹介する音楽本です。

 著者は、ロシア出身の女流ピアニスト、イリーナ・メジューエワさんです。彼女は、1992年にオランダで開催されたフリブセ国際コンクールで優勝。その後、ヨーロッパで活動していましたが、1995年からは日本を拠点に活動してきた一流のピアニストです。

 彼女は、毎年、京都でコンサートを開催し、日本国内で数々の賞に輝いています。

 その彼女が日本語の本を上梓したのには驚きですが、そこにはちょっとした仕掛けがありました。それは、この本のために行われた鼎談でした。鼎談のお相手は、音楽プロヂューサーである御主人と、この本を企画した編集者です。筆者が語りたい作曲家とその作品をテーマとして行われた鼎談は、9回に及び、そのすべてが一人語りのかたちでこの本となったのです。

 ここで取り上げられるのは、バッハ、モーツアルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ショパン、リスト、ムソルグスキー、ドビッシー、ラヴェル。クラシック音楽のファンにはたまらないラインアップです。

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(ショパンのワルツを弾くCD 公式HPより)

 この本の面白さは、各章がピアニストならではの視点に貫かれているところです。各章の構成はほぼ同じです。まず、その作曲家や作品に対して、著者が思い描いている印象や感じ方が記されます。それに続いて作品の紹介が1曲または2曲。そして、最後には紹介した曲の著者が選ぶ名演奏を紹介する、という流れになります。

 例えば、ベートーヴェンの章。

 彼女はピアニストとして、べートーヴェン32作品の全曲演奏に挑んでいます。そこで、経験した印象は、ベートーヴェンがピアノソナタ1曲ごとに、次々と新しいことに挑んでいたという事実でした。我々にとっておなじみの「悲愴」、「月光」、「熱情」などのピアノソナタは、聞く者の心に様々な想いと感動を運んでくれますが、著者は祖の楽譜から常に新しい音にチャレンジするベートーヴェンの姿を感じ取っているのです。

 さらに曲紹介では、ピアノソナタ「月光」と晩年の三部作の一つ「第32番」を取り上げています。我々の知っている月光は、月から静かに降り注ぐ物悲しい月の光が奏でられるのですが、その演奏は技術と言うよりも、3つの楽章を貫く、作曲者の意図をどう表現するのかにかかっているのです。その語りは音楽の用語も飛び交って、難しいのですが、ピアニストならではの視点に、なるほどと唸らせる語りの連続です。

 そして、「月光」のオススメ演奏は、シュナーベル、クラウディオ・アラウ、ヨーゼフ・ホフマンがあげられています。そのオススメの理由はこの本で確かめて下さい。

 この本は、どの章を読んでもロシア出身のピアニストならではの分析とリスペクトがあふれており時間のたつのを忘れます。ピアノと言えばショパン、ですが、ショパンの章の語りはこの本の中でも特出すべき面白さです。ピアニストのショパン弾きとベートーヴェン弾きの違いとは、ショパンがよく弾けるときとはどのような時なのか、ショパン弾きとリスト弾きはどこが違うのか。

 音楽は間違いなく人を幸福にします。皆さんもぜひ著者の音楽愛を楽しんでください。

 少し落ち着いたか見えるコロナ禍ですが、未知の変異オミクロン株もすぐそこに来ています。ご自愛ください。

 それでは皆さんお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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