こんばんは。
4月を迎え、いよいよ新しい年度が始まりました。
実は、この3月末で42年間務めた会社を雇用期間満了で退職し、晴れて自由の身となりました。通常、退職直前の1カ月はゆっくりとマイペースで業務を引き継ぐわけですが、私の場合はまったく異なっていて、ブログを更新する暇もないほど忙しく過ごしました。
3月初旬には静岡県の桑名市に出張、美味しい焼きはまぐりを堪能することできました。次の週には、大阪で仕事をし、その足で島根県の松江に一泊で出張。大阪は、この8年間担当したところで、一緒に行った大阪の仲間が松江で送別会を開いてくれました。松江なのでカニとかウニとかノドグロとか、食べたかったところですが、3月ということもありどのお店も満員で入れません。うろうろして見つけたのは、なんと「新世界」というお店。
大阪の方はよくご存じですが、「新世界」といえば通天閣に通じる通路界隈の名称です。そして、その名物は串揚げ。そのソースは2度付け禁止で知られています。なぜ、松江で「新世界」? なんとなく納得感がなかったのですが、考えてみれば大阪の新世界で送別会があったと思えば同じ事かと、妙に納得しました。松江では、仕事の後に飛行機までの時間があったので、国宝松江城を訪れることもでき、素晴らしい天気だったので松江城から鳥取の大山を臨むことができました。感激です。
(国宝 松江城)
さらにその翌週には金沢に出張。極めつけは、最終日です。
通常の職場では、定年最後の日は心おだやかに身の回りの整理を行い、お世話になった方々に挨拶周りをし、会社から貸与を受けているパソコン、健康保険証、社員証、社章、セキュリティカードの返却を行い、お見送りを受ける、というのが一般的だと思います。ところが、3月31日の金曜日には新潟に出張し、仕事をしていたのです。
おかげで、退職時の様々な用事は、すべて30日に終え、31日の旅費精算まで済まして、最終日には新潟でしっかりと仕事を完結しました。最後に新潟の地酒をお土産に買うことができたのが、せめてもの楽しみでした。まるで、自分の会社人生を象徴しているようでかえって感慨深いものがありました。
さて、4月からは喪失感があるのかと思いきや、なんと暮らしも気持ちもあまり変わることなく、むしろ開放感があるというのが正直なところです。生活という面で大きかったのは、コロナ禍におけるテレワークの導入でした。最後の1年間は2週間に1度しか会社には出勤せず、打ち合わせはWeb会議、出張も家から直行という状態でした。つまり、ほぼ1日中在宅での勤務だったので、退職しても会社への出退勤報告以外には何も変わることがなかったのです。
むしろ、自宅にいても拘束されることがなくなり、自由に出かけることができるようになった分、生活が自由なものとなったのです。コロナ禍による効用が妙なところにあると感じます。
新たな出発で、何に人生を使っていくのか、まだ模索中ですが、まずはご無沙汰しているブログを定期的に更新すること、そして、進歩のスピードこそ遅いのですが4年半続けているテナーサックスの演奏技能を少しでも向上させたいと思っています。さらに、人のお役に立てることができれば、それ以上に幸せなことはないと思っています。
久々にブログを更新するので、もう少し余談にお付き合いください。
最近、心を動かされたことはいくつもありますが、最も感動したのはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にて、侍ジャパンがみごとに世界一に輝いた瞬間でした。大谷翔平選手とアメリカを率いるキャプテンマイク・トラウト選手の対決は、手に汗握る真剣勝負でした。結果は大谷投手が、魔球「スイーパー」でトラウト選手を三振に打ち取り、日本が優勝を果たしたのです。
(侍ジャパン世界一の瞬間 asahi.com)
準決勝では、9回の裏にそこまで不振を続けていた村上宗隆選手がサヨナラ打を放ち、見事な勝利を収めたメキシコ戦にもしびれました。もちろん、この試合では3点ビハインドの7回に吉田正尚選手が放った起死回生の3ランホームランも忘れることができません。
ところで、日本代表を世界一へ導いた栗山英樹監督。皆さんは、4月3日に放送されたNHKの「スポーツ×ヒューマン」というドキュメンタリーをご覧になりましたか。大谷翔平の二刀流を実現させ、日本ハムファイタースをリーグ優勝、日本一へと導き、さらに日本代表監督として侍ジャパンを世界一に導いた栗山英樹監督はどんなマジックを隠し持っていたのか。
古い野球ファンはよくご存じですが、かつて西鉄の監督として巨人との日本シリーズで3連敗の後、4連勝を飾りみごと日本一となった名監督と言えば、三原脩監督です。あの「神さま、仏さま、稲尾さま」で有名な稲尾投手の4連投はいまだに語り継がれ、三原マジックと呼ばれました。
この番組を見るまで全く知らなかったのですが、三原脩監督は、自らの野球に関する見分、そして、哲学を数冊もの大学ノートにぎっしりと記して残していたのです。そこには、プロ野球の監督として心に留めおくべき、多くの言葉が語られていたのです。栗山さんは、ジャーナリスト時代に三原さんの娘婿であった怪童中西太さんの元を訪れた際に、中西さんからそのノートを借り受けたのです。番組は、このノートの内容を紹介するとともに、そこから栗山さんが何を学び、何を実践したのかを紐解いていくのです。
栗山監督が、メキシコ戦で不振だった村上選手に9回裏のあの場面を託したのはなぜだったのか。それは、栗山さんの選手を信じる信念との理由もありましたが、実は勝つための緻密な分析も伴ったうえでの決断だったのです。さらには、決勝戦で、あの究極の投手起用はどこから生まれてきたのか。この番組を見て、その采配は「マジック」のようにみえて、実は必然であったことがわかりました。
(栗山監督 世界一の胴上げ mainichi.com)
興味のある方は、4月15日の再放送をぜひご覧ください。
それにしても、大リーグも日本のプロ野球も開幕を迎え、WBCで活躍した侍ジャパンの面々がそれぞれの球団で大活躍している姿を見ると、胸が躍ります。今年も野球が本当に面白い。
さて、ブログの本題ですが、3月には、近年のコロナ禍ですっかりご無沙汰している、美術館と名画に関するエッセイ集を読んでいました。
「名画の生まれるとき 美術の力Ⅱ」
(宮下規久朗著 光文社新書 2021年)
(「名画の生まれるとき」 amazon.co.jp)
【なぜ人は絵画に惹かれるのか】
このブログでは、これまで様々な美術館で開催された絵画展をご紹介してきましたが、コロナ禍に見舞われた3年間はまったく美術館に訪れることもなく、絵を鑑賞する機会は失われていました。しかし、絵画や造形美術には我々の心を動かす力があります。我々は良く「心が洗われる」との表現を使いますが、絵画を見た時の感動は、まさにこの表現がぴったりです。
不思議なことに、ヨーロッパ印象派に連なる名作、ルネッサンス期の名画や彫刻、若冲の鶏、北斎や歌麿の浮世絵、名作と呼ばれる絵画をみると不思議なことに心を洗われるような気がします。それは、疲れた心が癒されることでもあり、落ち込んだ心に希望がさせものでもあり、生きる希望を感じるときでもあります。
いったい、我々はなぜ絵画に心惹かれるのでしょうか。この本は、そんな問いかけに直接答えてくれるわけではありません。しかし、美術の専門家である著者が、さまざまな絵画を見て感じるところをつづる文章を読むと、紀元以来、人の心を動かし続けてきた絵画の謎の一端が紐解かれるような気がします。
この本の目次をご紹介します。
著者は、美術史家として、また大学教授として美術に対する深い造形と愛情をもって、これまで多くの本を上梓しています。この本は、2017年から2021年までの間に発表した文章を加筆修正し、再構成して上梓されたものです。
本を読み進むと、この世の中にはいまだ知らない作者のいまだ知らない作品がいかにたくさんあるのか、ということを改めて感じます。
この本のオープニングは、氏が専門としているイタリアのバロック美術、とくにその先駆者であったカラヴァッチョの絵画にまつわるエッセイとなります。カラヴァッチョといえば、若くして名画を描く一方、喧嘩っ早い乱暴者で、常に周囲ともめ事を起こし、殺人事件を起こしてローマを出奔、マルタやナポリでも事件を起こし、38歳で許しを請うためにローマに戻る途中、病死した画家です。
しかし、その画力はすさまじく、バロック期の画家、ルーベンス、レンブラントに大きな影響を与えたと言われています。最初に語られるのは、そのカラヴァッチョのデビュー作である「聖マタイの召命」です。この絵は、キリストがマタイを召命するその場面を描いた絵画ですが、確かにこの絵は不思議な絵です。
マタイは、税金を徴収する役人ですが、当時お金を扱う税収人は罪人と同じと考えられていました。キリストは、罪人であるマタイを弟子として召命するわけですが、この絵ではまるで居酒屋のような席に複数の男が描かれ、そこに入ってきたキリストがマタイを指さしているその瞬間を表わしています。問題は、いったい誰がマタイなのかよくわからないところです。キリストが指さしているので分かりそうなものですが、実際には、指さしている人物は3人描かれていて、その誰もが別の人物を指さしているように見えるからです。
(カラヴァッチョ「聖マタイの召命」 Wikipedia)
いったいマタイはどの人物なのか。著者の解題にはワンダーがあります。
【未知の芸術家が次々と】
第1章は、よく知られている巨匠の絵画が次々と紹介されますが、章を重ねるにしたがって、私の知らない名前と作品が続々と登場します。
例えば、若くして亡くなった現代のごく人アーティストであるミシェル・バスキア、15世紀の北方ルネッサンスの巨匠ファン=エイク、イギリスの作家でターナーのライバルと目されていた風景画の巨匠コンスタブル、海と波を描いてロシアでの人気を誇る画家アイヴァゾフスキー、などなど、これまで知らなかった作家たちが紹介されていきます。
第4章では、日本美術の数々も語られますが、越後のミケランジェロと呼ばれる石川雲蝶、大正から昭和初期に活躍した木島櫻谷、日本のゴッホと呼ばれた浦上玉堂などなど未知の作家と作品が登場し、楽しむことができます。
コロナ禍による制限も徐々に緩和され、これからは美術館で開催される展覧会も増えてくるものと期待しています。感染防止を自衛しながら、また絵画や芸術鑑賞を復活させていきたいと思わせる本でした。美術好きの皆さん、ぜひ手に取ってお楽しみください。新たなワンダーを味わえることと思います。
それにしても毎日、メジャーリーグとプロ野球を見るのは楽しみです。
それでは皆さんお元気で、またお会いします。
〓今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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