青山和夫 マヤ・アステカ・インカの今

こんばんは

  我々はなぜ古代の文明に惹かれるのでしょうか。

  我々が習った「世界史」の教科書は、4大文明の発祥から始まりました。それは、メソポタミア・エジプト・インダス・黄河の4つの文明です。この4大文明は、いずれもチグリス・ユーフラテス川、ナイル川、インダス川、黄河という大河の恩恵を受けていました。人類は、石器時代に入り、狩猟中心の生活から食物の栽培中心の生活へ変化し、放浪の時代から定住の時代へと移りました。定住の生活は集落を生み、長を生み、王を生み、文明へと発展していきます。

  という歴史は半世紀前に一般的な人類史でした。

  しかし、4大文明以外にも文明は生まれていたのです。

  今年はテレビ放送が始まって100年に当たります。NHKをはじめテレビ各局は様々な記念番組を創って放映しています。当たり前の話ですが、50年前の1975年は放送開始50年の節目の年に当たっていました。そのとき、私は高校生でしたが、この50周年記念番組として制作されたのが、「未来への遺産」という特集番組です。

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(「未来への遺産DVD」 bookoffHPより)

  この番組は、当時最新の考古学や歴史学の情報をもとに、世界中にちらばる人類の古代文明を取材して「未来への遺産」としてまとめあげた力作でした。現在、すっかりメジャーとなったユネスコの世界遺産。世界遺産条約の発効が1975年。その第1回遺産が発表されたのが、1978年ですから、この番組は時宜を得た作品に他なりません。

  番組が、160分。各回にテーマが設定されており、15回にわたって世界中に点在する遺跡を紹介してくれました。その第1回は、「プロローグ 失われた時への旅」よ題して、まさに4大文明の遺跡を巡る番組でした。そして、番組は4大文明のみならず、古代アメリカ文明も巡りました。当時、この番組に啓発されて古代のロマンを知り、毎週楽しみに見ていたのは忘れられません。この放映に会わせて、NHK出版から同名の写真集も発売され、なけなしのお小遣いを使って、全巻そろえたのも良い思い出です。

  その第1回の放送で紹介されたのが、メソアメリカ文明と言われるアステカの遺跡とマヤ文明のテオティワカンの遺跡でした、その密林の中にそびえる壮大なピラミッドは、エジプトのピラミッドに勝るとも劣らない壮大さを備え、階段状にしつらえられたピラミッドの頂上は平らかに整えられ、そこに生け贄をまつる祭壇が置かれています。

  この番組に心を躍らせ、ここから、中南米のマヤ・アステカ文明、そしてアンデス地域のナスカ・インカ文明に心をときめかせるようになったのです。

  今週は、メソアメリカとアンデスの古代文明最新研究を語る本を読んでいました。

「古代アメリカ文明-マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像」

(青山和夫編 講談社現代新書 2023年)

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(新書「古代アメリカ文明」 amazon.co.jp)

【誤解されてきた古代アメリカ】

  マヤ文明というと思い出すのは、手塚治虫が少年チャンピオンに連載していた「クレーター」という作品です。この作品は、一話ごとの完結で、毎回、不可思議な物語が展開していく面白い作品で毎週楽しみにしていました。この「クレーター」の中に「生けにえ」という不思議な物語があります。

  時は2000年前。場所はメキシコのとある古代ピラミッドの頂上の神殿の前に今まさに神の生け贄にならんとする美しい女性が首を捧げて祭壇に横たわっていました。彼女は心の中で神に訴ったえます。「私の望みを聞いてほしい。」すると、神が彼女に答えます。「おまえの望みとは何か。」

  彼女の望みとは、あと10年生きて平和な家庭と子供を持って暮らしたい、との想いでした。神は、その望みを叶えてやる、ただし、10年後のこの日にはここに戻ってくることになる。と語ります。彼女は頷きました。

  気がついたとき、彼女は一糸まとわぬ姿でとある島の砂浜に現れます。彼女は記憶を失っていました。そして、偶然、島に遊びに来ていた少年が彼女を助けます。二人は島で逢瀬を重ねて恋に落ちました。時は昭和の日本。帰ってきた二人は日本の大都市で結婚します。結婚してしばらくしたとき、夫は会社からリストラに会います。帰って妻に「首を切られた。」と言ったとき、彼女はショックで気を失ってしまいます。

  そんなことがありながらも二人には子供も生まれ、夫は新しい会社でエンジニアとして腕を磨いていきます。そして、島で出会ってから10年が経ったとき、彼はその腕を買われメキシコの建築を任されて現地に赴任することになったのです。小躍りしながら帰って妻に報告すると、妻も我が事のように喜んでくれた後、ふとつぶやいたのです。

  「ねぇ、メキシコに行ったらね、マヤ族インディアンの祭壇があるの。そこで毎年少女が生けにえにされたのよ。そこへ行くことがあったら、チクワナという生けにえの少女のためにお祈りしてくださる?」

  「なんで、そんなことを言い出したの?」といぶかる夫に「ふっ、と思いついたの・・・。」と答えると、妻は「お茶でも入れるわね。」といって台所へと向かいます。そして、その後ろ姿がかき消えてしまうのです。夫はパニックになって探します。

  そして、少女はメキシコの祭壇へと帰りました。

  マヤ文明というと、まず最初に思い浮かぶのが密林の中にそびえ立つピラミッドとそこで行われたいけにえの儀式です。

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(メキシコ チチェン・イッア遺跡 wikipedia)

  この本の編者で、マヤ文明の研究の第一人者である青木和夫氏は、この本の序章で古代アメリカ文明がいかにゆがめられて人々の中に伝えられているのかを語ります。そこで語られるのは、大衆受けする「謎と神秘の古代アメリカ文明」の姿です。「生けにえ」は確かに行われていたのですが、アメリカ大陸を征服し、植民地としたスペインの人々は、勝者として先住民の野蛮さをことさら強調します。その文書には、「4日間で80,400人を生けにえにした。」などと記されていますが、物理的に不可能なことは明白です。

  また、「マヤの人類絶滅の預言」や「ナスカの地上絵は、宇宙人の目印のために書かれた」、「マヤの石版には宇宙船に乗る宇宙飛行士の姿が描かれている」など、科学的には全く根拠のない都市伝説が面白おかしく語られ、一人歩きしています。

  また、メキシコやグアテマラに築かれたマヤ文明、アステカ文明。ペルーの海に近い大地に描かれたナスカの地上絵。そして、アンデス山脈の高地に築かれたインカ文明。この本には、ともすれば、混同してしまいそうな古代アメリカ文明の最新研究をわかりやすく語ってくれるのです。

  それは、ワンダーな体験です。

【古代アメリカ文明は人類史の鉱脈】

  我々が世界史で習った古代文明は、すべて大河の近くで生まれ、反映しました。そして、文字の発明がその文明をさらに発展させ、青銅器から鉄器の道具への応用がその生産性を飛躍的に高めることになったのだ、と教わってきました。

  しかし、メキシコやペルーの地で発祥した古代アメリカ文明の近くには大きな河はありませんでした。さらにインカ文明は文字を持たない文明にもかかわらず、大都市を形成し広大な地域にナットワーク型の国家を作り上げたのです。そして、古代アメリカ文明は青銅器も鉄器も使っていません。彼らは石器と土器の文化を発展させて巨大な文明を気づいていきました。驚くことに、彼らは「車輪」という概念も持たず、山道や密林での運搬には人力と動物を利用してその文明を高めていったのです。

  これまで、我々がヨーロッパの人々の目から分析してきた文明の要素は、必ずしも文明に必要不可欠な要素ではなかったのです。そして、そうした常識から外れた古代アメリカ文明を理解しようとせず、キリスト教的な文化の中で抑圧してきたのです。

  この本の著者たちは、それぞれがマヤ、アステカ、ナスカ、インカを30年以上も現地で発掘研究してきた研究者です。その地に足のついた発掘と研究は、これまでの常識をはるかに越えるワンダーを我々に教えてくれます。

  例えば、マヤ文字。ピラミッドの壁面や石版に描かれたマヤの文字は長年の謎でしたが、近年の研究ではその一端が解読されています。文字にはアルファベットのような表音文字と感じのような表象文字がありますが、表音文字が26文字と閉鎖的なのに比べ、漢字のような表象文字は開放的で無限に文字を作り出せるそうです。

  マヤの文字はまさに表象文字で、発見されているだけで4万から5万の文字があると言います。その文字では、すでにどう発音したかまでを解読しつつある、と言います。もっとも、文字を使っていたのは神との交流をする上層部の人々だけで、大規模神殿を中心に集まる民衆たちは文字を使うことはなかったようです。

  また、マヤ、アステカのメソアメリカ文明では、暦や数は両手両足の指をを使って数える20進法が利用され、アンデス文明では手の指を使って数える10進法が使われたとの話もワンダーです。これが暦にもつながります。

  第三章で坂井正人氏によって語られるナスカ地上絵の研究はさらにワンダーです。

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(ナスカ一筆書地上絵「ハチドリ」 wikipedia)

  ナスカの地上絵は、その大きさが数キロに及ぶ絵もありとても地上からは識別できず、観光ガイドもヘリコプターやセスナ機で地上絵を見に行くほどです。例えば、有名なハチドリの絵は全長が96mに及びます。また猿の絵は、110mに及ぶのです。

  坂井正人氏は、山形大学において2004年からナスカの地上絵を分析しています。そこに利用された技術は、人工衛星による画像解析でした。人工衛星画像による解析と航空写真とドローンを利用した詳細画像で、ナスカの地上絵の全貌を分析しようというわけです。

  さらに2018年からは人工知能を利用して、人の眼では判別できない地上絵を見つける研究も行ってきました。その結果、新たな地上絵を含めて350点もの地上絵を発見することに成功したのです。このニュースは世界中を驚かせました。

  地上絵には、線で描いたものと面で描かれたものに分類され、その図柄も動物、植物、人と様々です。研究の目的は、地上絵を分析することにもありますが、最終的にはこうした多数の絵を何の目的で古代ナスカの人々が描いたのかとの謎を解き明かすことにあります。

  氏は、350点以上の地上絵の分布を詳細に分析、さらにフィールドワークで実際に地上絵と地上絵の配置を足し家馬手言ったのです。その結果、氏は驚くべき仮説にたどり着いたのです。さて、そのワンダーはぜひともこの本で確かめてください。ワンダーです。


  この本を読むと、我々が毎日食べている多くの野菜の6割は古代アメリカ文明が発祥の野菜だと言います。トウモロコシやジャガイモを筆頭にトマトやズッキーニ、カボチャやトウガラシ等々、数え上げればきりがありません。皆さんもぜひこの本で、知られざる古代アメリカ文明のワンダーを味わってください。楽しめること間違いなしです。

  今年は9月になっても酷暑はおさまりそうにありません。皆さんもご自愛ください。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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