三上延 ビブリア古書堂 祝11歳!

こんばんは。

  ロシアの引き起こした侵略戦争は3ヶ月を超え、ウクライナでの殺戮を続けています。

  人間の欲望は止まるところがありません。アジアには、「足るを知る」という考え方があります。それは、幸福とは今現在の幸福を正しく知ることが必要だという教えです。自己顕示欲や権力欲、支配欲が異常に高い人々は、誰よりも自分が多くの権力と多くの富と多くの領土を手に入れなければ幸福を感じることができません。そこには限度がないのです。

  そして、自らの欲望を満たすためには、他人の苦しみ、命さえも顧みないのです。

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(ロシアにより破壊されたセベロドネツク nhk.or.jp)

  プーチン大統領は、決して自らの欲望のためにウクライナ軍事作戦を始めたのではない、言うに違いありません。しかし、その中心には間違いなく己の欲望があります。それは、自らの力でかつてのロシア帝国や旧ソビエト連邦が手にしていた領土や国家を取り戻し、自らの名前をロシアと世界の歴史に刻みたいという欲望です。

  足るを知らないプーチン大統領は最も不幸です。

  一方で、第二次世界大戦の前と後では、戦争犯罪に対する重みは大きく異なります。それは、人類が自らを滅亡させるに足る力を手に入れたことによる違いです。古代から人を殺めること、人を傷つけることは犯罪として認識されています。そして、最も古い償いは同じ苦しみを与えることです。本来であれば、ウクライナに先に手を出したロシアに対して、その報復はロシア国内に攻め入ることです。しかし、それは世界大戦と世界の破滅を意味します。

  ロシアの卑劣さは、「おまえたちは人類を滅亡させる引き金を引くのか?」との問いを投げ掛けることで、ウクライナへの侵攻を局地化させようとするその思考です。

  新たな時代の民主(のふり)帝国主義に対して、我々はどのように対峙するのか。一人でも多くの人間がプーチン大統領の思想や行動は、人には受け入れられない卑劣な殺戮であることを広く声高に語り、広げていくことが必要です。

  このことは他に転嫁することができない、我々人類が背負った宿題なのです。

  いらだちは尽きませんが、今週は11年目を迎えた本にまつわるミステリィで大人気シリーズとなった文庫の最新刊を読んでいました。

「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ 扉子と虚ろな夢」

(三上延著 メディアワークス文庫 2022年)

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(ビブリア古書堂最新刊 amazon.co.jp)

【本はこの世からなくなるのか】

  最近、電車の中で文庫本を読んでいる人が少なくなりました。

  多くの人たちは、スマホを片手にゲームにいそしんでいます。時々、タブレットやスマホで何かを読んでいる人もいます。その人たちは、最近よくテレビのCMで見かける電子レンタルマンガで漫画を読んでいます。そして、たまに電子書籍を読んでいる姿も見かけます。

  こうして世代が変わっていくと、紙に印刷された本はやがて世界から消えていくのか、と殺伐とした気持ちになります。

  かつては、「華氏451度」のように、国家権力による焚書坑儒によって地球上から本がなくなってしまう恐怖が描かれていましたが、現実には、国家による統制ではなく、我々人類自らが本を必要としなくなる時代が来るのかもしれません。

  しかし、それは想像もできないはるか未来のこととなるに違いありません。

  なぜなら、日本の学校教育がデジタル化を阻んでいるからです。その証拠に試験が近くなると電車では参考書や辞書を片手にマーカーで色鮮やかになった文字を一生懸命覚えている若者たちを多く見かけるからです。

  うちの息子は小学校の教諭をやっているのですが、小学校にiPadが導入されたとき、タブレットの扱い方を知っている教諭がだれもおらず、子供のころからPCオタクだったうちの息子が校長に頼まれて、タブレットのマニュアル作りに奔走しました。ところが、せっかくマニュアルを作っても誰もそれを読まず、タブレットを使う段になると、ほぼ全員がトラブルを起こし直接きいてくるそうです。聞く前にマニュアル読んでほしい、と嘆いていました。

  その小学校は神奈川県内でも教育レベルが高いことで知られている文京都市にある公立校なのですが、そこでさえも教諭のデジタルリテラシーは極めて低く、アナログがすべてを支配しているのです。

  そうした環境で教育を受けてきた子供たちは、仕事をするために必要な知識を得るときにはおそらく「本」を読むことで物事を知ろうとするに違いありません。つまり、本はなくなることはないというわけです。本をこよなく愛する私としては、安心してよいのか、心配した方が良いのか、複雑な思いの今日この頃です。

【古書堂店主が解き明かす本ミステリィ】

  さて、大人気シリーズだった「ビブリア古書堂の事件手帖」は、2017年に古書堂の女性店主篠川栞子さんとアルバイト店員だった五浦大輔くんが結婚するという大団円で幕を閉じました。

  しかし、著者三上延さんの古書愛は止まることを知りませんでした。

  昨年、待望の新シリーズが始まったのです。このシリーズでは、三上さんがテーマとして取り上げた本や、その著者がまさに主人公と言ってもよいのですが、長編では、さらにそれが面白さの中心となります。例えば、シリーズ初の長編譚では、江戸川乱歩の希少本を巡るいくつもの謎解きが我々を小説世界へといざなってくれ、時を忘れました。第6巻では、太宰治の「走れメロス」をモチーフとした太宰治の希少本を巡る人間劇が語られます。

  そして、最終巻では、なんとシェークスピアの、世界で初めて刊行された全集であるファーストフォリオが主人公となったのです。

  このシリーズは本好きにとっては、思わず顔がほころんでしまう唯一無二の物語なのです。

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(ビブリア古書堂事件手帖10周年記念 amazon.co.jp)

  2021年から始まった第二シリーズでは、いよいよ栞子さんと大輔くんの愛娘、扉子さんが登場します。前作は、日本のミステリィ小説のレジェンド、横溝正史の作品が謎解きの中心となりました。そこに登場する篠川扉子さんは高校生。しかし、思春期の彼女はプロローグで少し垣間見えるのみで、物語はすぐに現在へと戻ります。前作は、新シリーズのスタートにふさわしい全作品中一、二を争う面白さでしたが、その構成にはいくつもの時制が重なっており、若き栞子さんをほうふつとさせる高校生の扉子さんはまださわりのみの登場でした。

  本作では、その扉子さんが前半戦大活躍します。

  今回の作品は、長編でありながらもいくつかのエピソードがつながっていく、三上さん得意のプロットで展開していきます。

  まず、全編を貫くのは、神奈川県藤沢駅前のデパートで開催される古本市です。この伝統ある古本市は、今回が60回目を数え、古本マニアたちが毎回楽しみにしているイベントです。我らが「ビブリア古書堂」もこの古本市の参加店の一つ。古本市の開催は3日間となります。

  今回の物語では、この3日間にいくつものサスペンスが盛りこまれていくのです。

  今回、栞子さんに持ち込まれた依頼は、古くからつきあいのある同業者、古本店「虚貝堂」にまつわるものでした。(このさきネタバレあり。)

  虚貝堂はビブリア古書堂が店を構える北鎌倉と同じ沿線、戸塚駅前で50年以上も営業しているなじみの古書店です。古書店の店主は、すでに70歳を超える年齢ですが、息子と一緒に店を切り盛りしており、店を譲ろうと考えていました。ところが、その息子は急性の胃がんの発見が遅れ、亡くなってしまいます。

  亡くなった虚貝堂の若旦那には、一人息子がいました。しかし、13年前に離婚して、息子は母親に引き取られ、母親の下で育てられました。今回の依頼主は、亡くなった若旦那が13年前に別れた奥様だったのです。そして、依頼の内容は、驚くべきものでした。

  虚貝堂のご主人は、息子の蔵書を売りさばこうとしている、というのです。依頼主の奥様は、亡くなったご主人の一人息子こそ、ご主人の蔵書の相続人であり、蔵書の処分については相続人が判断すべきであり、なんとか蔵書を売ることを止めてほしい、というのです。

  さらに、古書堂を兼ねた篠川家で栞子さんがこの依頼を受けていたとき、ちょうど学校から帰宅した扉子は、この話を立ち聞きしてしまいました。丁度、母親智恵子さんのロンドンでの仕事で出張しなければならなかった栞子さんは、意を決して、扉子を藤沢で開催される古書市に送り込むことにします。

  篠川扉子は、本を巡る謎を解く名手栞子さんと同じく、その手腕を発揮するのでしょうか。

【古書市にはワンダーがいっぱい】

  以前にもブログに紹介しましたが、浦和駅西口にある伊勢丹、コルソから延びる「さくら草通り」を西に向かって抜けていき、旧中山道を渡った広場では、月に1回、「浦和宿古本いち」が開催されています。県内の古本屋さんが選りすぐりの古本を販売してくれるうれしいイベントです。

  散歩で浦和界隈を毎日歩いているのですが、この「いち」がたっていると、そこで1時間以上足止めとなります。それぞれの出品本をみていると興味が尽きません。単行本や文庫本、新書の棚には100円から200円で豊富な本が数百冊もならびます。こちらをくまなく見るのも楽しみなのですが、それ以外にも嬉しい品物が並んでいます。

  まず、目を凝らすのはCDコーナーです。

  最近は、テナーサックスの教室に通っているので、その名曲を集めたベスト盤はタワーレコードなどでは見つかりません。先日も「JAZZ TENOR SAX」なるベスト盤をみつけました。なんと、デクスター・ゴードンの「チーズケーキ」、ジョン・コルトレーンの「インナセンチメンタルムード」、ソニー・ロリンズの「ラウンドミッドナイト」など名手の9曲が収められており、1000円は超お得で、狂喜乱舞しました。

  さらに日本で行われた美術展のカタログも必ずチェックします。

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(2010年 ボストン美術館展カタログ)

  先日は、2008年に名古屋市美術館で開催された「モネ『印象日の出』展」のカタログを見つけ、思わず手に入れてしまいました。なんとその額300円。嬉しい買い物です。さらには、2010年に森アーツセンターギャラリーと京都美術館で開催された「ボストン美術館展」のカタログ。ルノワールをはじめモネ、コロー、シスレー、ピサロと名だたる印象派の巨匠たちの名作が次から次へと登場します。こちらも300円。あまりの感動にしばらくは毎日眺めてほくそえんでいました。

  もちろん、これまで買い逃していた映画のパンフレットや単行本、文庫、新書も。訪れるたびに新たなワンダーを味わうことができます。

  さて、そんな古書市で繰り広げられる謎解きの数々、みなさんもぜひ味わってください。

  今回、取り上げられているのは東宝映画のパンフレット「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」、そして樋口一葉の「通俗書簡文」、さらには夢野久作「ドグラ・マグナ」。3日間で繰り広げられる謎解きの妙。今回も篠川栞子、五浦大輔、篠川扉子、そして篠川智恵子が大活躍です。お楽しみに。


  首都圏では、またもコロナの新規感染者が増加しつつあります。皆さん、手洗い、消毒、密回避とマスク着用(熱中症には要注意です。)を励行して拡大防止に努めましょう。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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