北中正和 ビートルズとは何者なのか?

こんばんは。

  ロシアを統べる独裁者プーチン大統領。そのしたたかさは、帝政ロシアから旧ソビエト連邦へと綿々と受け継がれてきたロシア帝国の歴史そのもののようです。

  それは、自らの正当性を主張するためには、自らの主張以外のすべてに対して無視するか、「ニエット」と語る、メンタリティそのものです。

  ロシアによるウクライナ侵攻は5ヶ月を超え長期化しています。ウクライナは欧米民主主義の国々から軍事支援を受け、東部、南部での領土奪回をめざし、過酷な闘いを繰り広げています。そうした中で、現在最も国際的な問題となっているのがエネルギー危機と食糧危機です。

  ロシア経済の要は、広大な領土の地下資源である天然ガスです。その液化天然ガスが、EU域内では極めて高いシェアを誇っており、その供給を停止すれば多くの国でエネルギー不足が引き起こされます。欧米諸国はロシアに強烈な経済制裁を課していますが、ロシアは経済の根幹であるエネルギーの供給が滞ることがありません。EU各国、イギリスではロシアからのエネルギーに頼らないよう代替手段を講じつつありますが、それには数年を要する状況です。

  あまつさえ、インドや中国はこれを安価なエネルギー確保の好機ととらえ、ロシアからの液化天然ガスの輸入を大きく増加させています。ロシアはほくそ笑んでいるに違いありません。しかし、世界的に見れば、エネルギー価格は高騰し、多くの国でインフレが進んでおり、ロシアは世界経済を停滞へと導いているのです。

  さらに深刻なのは世界的な食糧危機です。

  ウクライナは豊饒な穀物生産地を有する農業大国です。ウクライナの食糧輸出は、ひまわり油世界1位、大麦は世界第2位、トウモロコシは第3位、小麦は第5位となっており、その輸出先はアフリカ、アジアを含め190か国に及んでいます。(2016年)

  その「世界の食糧庫」が侵攻以来、半年近くも穀物を輸出できていないのです。それは、輸出の出口である黒海をロシアが封鎖しているからです。港湾都市マリウポリ、クリミア半島はロシアに制圧され、ウクライナが唯一輸出可能なオデーサもロシア海軍に封鎖され、ウクライナは身動きが取れません。そうする間にもアフリカなどでは穀物が手に入らず、深刻な飢餓が生じているのです。

  そうした中、722日、トルコと国連がロシア、ウクライナとそれぞれ合意文書を締結する形で、ウクライナの穀物輸出ルートの安全を確保することが合意されました。これは「ウクライナ食糧輸出」のための安全回廊の設置に他なりません。

  しかし、常に自国の優位を戦略としているロシアは、こともあろうにその翌日に合意がなされた港湾都市オデーサにミサイルを撃ち込んだのです。幸いなことに81日、ウクライナのトウモロコシを乗せた貨物船は無事にオデーサを出港し中東に向かいました。

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(穀物輸出第1弾出港 yomiuri.comより)

  常に自らを優位な位置に置くための戦略。すでにウクライナをはじめ民主主義の国々はロシアの語ることを正面切って信じることはありません。ロシアの人々やロシアの歴史、文化をこよなく愛する世界じゅうの人々の想いをプーチン大統領はすべて踏みにじっているのです。

  たとえどれだけの時間が経ち、どれだけの既成事実が現実化しても、我々はそれが侵略と蹂躙と殺人の下に行われた行為であることを決して忘れてはいけません。それは、人が人であるための最も根源的なアイデンティティだからです。

  苛立ちは常にわだかまりますが、本の話題へと移りましょう。

  世界の音楽界に衝撃を与えたバンド、ビートルズが解散してから半世紀が過ぎました。

  しかし、世界じゅうのどこにあっても、彼らの曲が奏でられない日は一日もありません。ビートルズが1962年から解散した1970年までの間に世に送ったオリジナル曲は213曲。そこからは、現代につながる様々な音楽への潮流が生まれました。

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(藤本国彦「ビートルズ213」 amazon.co.jp)

  今回読んでいた本は、「ビートルズ」。題名を見た瞬間に手に入れました。

「ビートルズ」(北中正和著 2021年 新潮新書)

【ビートルズはいつも心を突き動かす】

  皆さんは、カラオケに行ったときにまず何を歌いますか。

  一時、コロナ禍の規制でカラオケは最も感染リスクの高い娯楽のひとつとして悪者扱いされました。しかし、人にとって歌うという行動は、「祈り」にも似てなくてはならない行為です。行動制限がなされなくなった今、感染予防に万全を尽くして家族や親しいひと、はたまた一人カラオケを楽しむ方は復活しました。

  私のカラオケ持ち歌のいちばんは、昔も今も変わらずサザンオールスターズと井上陽水ですが、場が長くなり持ち歌がなくなると、最後には必ずビートルズに行きつきます。はじめのうちはおなじみの「Let It Be」や「Hey Jude」を歌いますが、興に乗ってくるとエスカレートして、「Oh! Daring」や「Lady Madonna」など次々に歌います。

  どちらにせよ周りはあまり聞いていないのですが、何と言っても一番好きな曲は、ジョージが創った「While My Guitar Gently Weeps」です。

  ジョージといえば、「Here Comes The Sun」や「Something」が最も多くカヴァーされている名曲ですが、ビートルズでのジョージの願いはギタリストとしてグループに貢献することでした。例えば、レコードデビュー直前までビートルズのドラマーであったピート・ベストはインタビューでジョージの印象を聞かれると、とにかくギターの練習に熱心で、いつも寡黙にギターと取り組んでいた、と語っています。

  この曲は、ホワイトアルバムに収録されていますが、この2枚組の録音時、4人はそれぞれが自らの音楽と考え方にとらわれていて、グループとしての結束が揺れ動いていました。リンゴスターは、このアルバムの録音途中で、自分の存在価値に疑問を持ち、失踪してしまいます。なんとかリンゴを見つけた3人は、いかにビートルズにリンゴのドラムが必要かを語り、連れ戻しています。

  そんな中で、ジョージは外部からミュージシャンを招きます。そのミュージシャンこそが、この曲でウーマントーンのギターを聴かせてくれるエリック・クラプトンだったのです。この後もジョージはセッションにビリー・プレストンなどを招きますが、ゲストを迎えることでビートルズが緊張を取り戻すとの方法はここから始まりました。

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(The Beatles「ホワイトアルバム」amazon.co.jp)

  最近、楽譜を手に入れてテナーサックスでもこの曲を奏でますが、音符を見ると、とても単純な音の構成にもかかわらず、すばらしいメロディメイクがなされており、改めてジョージの音楽センスのすばらしさに感動します。とくに、サビのパートでは絶妙な転調がなされており、この部分ではグッと心をつかまれるように感じます。

  こうしたジョージの才能の開花も、もとはといえばバンマスであったジョン・レノンの「全員平等」精神の現れです。ジョンは、ビートルズのデビュー時にいくつかルールを決めています。まず、ジョンとポールで作った曲はどんなプロセスで作ろうとレノン=マッカートニーとクレジットすること。そして、アルバムを作成するときには必ずジョージやリンゴの曲を入れること。こうしたジョンのマネジメントがビートルズをより高みへと引き上げたと思うのは私だけでしょうか。

【久しぶりのビートルズ本はいかに】

  このブログで、ビートルズ本を取り上げたのは20169月ですので、あれからかれこれ6年を経ています。そのときも、ビートルズについては、様々な研究本や全記録、さらに自らが語った「アンソロジー」も発売され、もう語るべきことは何もないのでは、と書きましたが、今回も同じ疑問を抱えつつこの本を手に取りました。

  しかし、彼らの曲がさまざまなミュージシャンにカヴァーされ、それぞれの個性に色付けされて新しい音楽へと変貌するように、「ビートルズ」という現象もその切り口が違えばそこには別のビートルズが現れるのかもしれません。

  今回、著者の疑問は、「なぜビートルズだけが、他のミュージシャンとは違うのか。」なのです。

  著者は、ビートルズに関する本が、楽曲の構成やエピソード、そして彼らの日々の行動やエピソードを事細かに記録し、出版され、その記述がどんどん稠密に、詳細に、分析されて行く現実を踏まえ、もっと大きな視点で俯瞰的にビートルズやその周辺を捉えれば、なぜビートルズが特別なのかが見えてくるはず、と語ります。

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(北中正和「ビートルズ」 amazon.co.jp)

まず、目次を見てみましょう。

序章 なぜビートルズだけが例外なのか

1.故郷リバプール 「マギー・メイ」「ペニーレイン」をめぐる章

2.ジョン・レノンはアイルランド人か 「マイ・ボニー」「悲しみはぶっとばせ」をめぐる章

3.ミンストレル・ショウの残影 「ミスター・カイト」「フリー・アズ・ア・バード」をめぐる章

4.スキッフルがなければ 「レディ・マドンナ」「ハニー・パイ」をめぐる章

5.作品の源流はどこに? 「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」「イエスタデイ」をめぐる章

6.カヴァー曲、RB、ラテン音楽 「ベサメ・ムーチョ」「ツイスト・アンド・シャウト」をめぐる章

7.カリブ海、アフリカとの出会い 「蜜の味」「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」をめぐる章

8.60年代とインド音楽 「ノルウェーの森」「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」をめぐる章

9.ふたつのアップルの半世紀 「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」をめぐる章

⒑ ビートルズはなぜ4人組か 「アイ・アム・ザ・ウォルラス」「ゲット・バック」をめぐる章

  お気づきの通り、音楽評論家である著者は、彼らの楽曲をヒントにしてその歴史的な背景や社会的な背景を踏まえて、「なぜビートルズなのか」を語っていくのです。

  世にいうビートルマニアにとって、この本に出てくるエピソードは、ほとんどが既知の事実であり、そこにワンダーを求める読者にとって、この本はワクワクするような内容ではありません。しかし、著者の音楽への造詣は深く、これまでのポピュラー音楽の歴史の中で、いかに多くの要素を吸収して、それを自らのオリジナルソングに仕上げ、それを音楽界にインフルエンスしていったかがよくわかります。近年、SNS上ではインフルエンサーなる言葉が流行していますが、ビートルズはポピュラー音楽のインフルエンサーだったのです。

  特に面白かったのは、20世紀から今世紀に続くワールドミュージックの隆盛がポールやジョージから始まった、と感じられたところです。ワールドミュージックは、ボブ・マーレイやウェザ―リポートのジョー・ザビイヌルによってインフルエンスしたものと思っていましたが、その源流ははるかにビートルズにあったとはワンダーでした。

  難を言えば、最後の章について、ビートルズファンにとってはあまりに凡庸な結論であったので、拍子抜けをしてしまうのは否めないというところです。

  この本は、現在の音楽に大きなインパクトをもたらし、いまやファンが3世代目に突入したビートルズ、そしてその音楽がどのように成り立ち、どのような役割を果たしたかを教えてくれる貴重な本でした。音楽好きでビートルズ好きの方にはオススメです。


  コロナ禍はついに第7波まで到達しました。いまや自らが家族とともに、あらゆる手段(マスク、消毒、密回避)を通じて感染を防ぐことが当然な時代となりました。感染数はもはや世界レベルに達していますが、皆さん、感染防止に全力を尽くして、お過ごしください。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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