こんばんは。
コロナ禍は、第2波がピークを過ぎ、落ち着くかに見えましたが一転またも猛威を振るい、第3波の拡大が懸念される様相を呈してきました。
ウィルスの感染防止と経済再生を両立させるのは本当に難しい。
ところで、近年最も残念だったことのひとつに12月のベートーベン生誕250年にちなんだコンサートがキャンセルになったことがあります。
今や日本ではファンが増えた指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ氏が、自ら育て上げたドイツ・カンマーフィルを率いて来日。12月の9日(水)から13日(日)にかけて東京オペラシティにて、ベートーベンの交響曲9曲をすべて演奏する、という夢のようなコンサートだったのです。その情報を知ったときには、すでに抽選が終了を迎える寸前で、木曜日の4番と5番は何とか手に入れましたが、3番「英雄」や6番「田園」、7番や第九はすべて売り切れだったのです。
残るは一般発売。発売開始にはネット販売がパンクするのが通例なので、日曜日の第九ワンチャンスに賭けることに決めて、連れ合いと二人で予約サイトにアクセスしました。案の定開始直後にはアクセス不能となり、購入はできないのかと落胆しました。ところが、連れ合いのスマホが奇跡的につながります。なんと、日曜日の交響曲第8番と第九のチケットを手にすることができたのです。
今年一番の暁光と手に手を取って喜び合いました。
ところがです。喜びもつかの間、10月14日、運命のメールがパソコンに届きました。なんと、カーマンフィルコンサートキャンセルと払い戻しの連絡だったのです。この連絡は残念と言うよりもショックでした。環境から見て、ドイツの交響楽団が来日することができないことは頭では理解できますが、あのパッシブで流麗な響きで聞くベートーベンがかなわぬ夢となったことは、納得できることではありません。
心の傷が和らぎ、チケットを払い戻すまでには1カ月ほどかかりました。
ところで、残念なこともあれば、うれしいこともありました。
今年の2月に最後のライブに足を運んで以来、ライブはのきなみキャンセルとなっていましたが、久しぶりにライブに参加することができました。そのライブは、日本のボサノヴァの第一人者、小野リサさんの「2020 Love joy and Bossa Nova」コンサートです。小野リサさんのライブは、6年ぶりですが、その変わらないボサボヴァのセンスと優しい歌声にすっかり癒されました。
(小野リサさん コンサートの会場チラシ)
ライブのパフォーマーは、ピアノの林正樹さん、ベースの織原良次さん、ドラムスの斉藤良さんです。コロナ禍の中、優しさと癒しを意識したライブは、メロディアスなバラードを意識したセットリストで、「愛の賛歌」、「街の灯り」、「コーヒールンバ」、「テイクファイブ」などおなじみの名曲が並びました。ピアノの林さんは名バイプレーヤーで、その楽しそうにインプロヴィゼーションを繰り広げる姿が印象的でした。
優しさと癒しとはいえ、ボサノヴァとサンバではノリの良さで会場を盛り上げていました。前半最後には、「テイクファイブ」がアップテンポなリズムで会場を盛り上げ、最後のプレスリーナンバー「GIブルース」では、みごとなブサノヴァアレンジで会場は大いに盛り上がりました。さらには、第2部の最後は、とどめの「マシケナダ」。やっぱり、サンバは盛り上がります。
さて、キャンセル続きの昨今ですが、今、NHKで放映されている「ベートーベン250プロジェクト」は、クラシックファンならずとも心が躍るなかなか素晴らしい企画です。
【ベートーベンって何が凄いの?】
10月18日日曜日に放送された「ベートーベン250プロジェクト 第2回」をご覧になったでしょうか。以前にもご紹介した日曜クラシック音楽館の一環なのですが、この番組が本当に素晴らしかったのです。この番組のナビゲーターは、元?SMAPの稲垣吾郎さんです。不覚にも知らなかったのですが、稲垣さんは「NO.9 不滅の旋律」と題された舞台で、ベートーベンを演じていたというのです。まさに主役。そうした意味で、このプロジェクトのナビゲーターとして白羽の矢が立ったのもうなずけます。
第2回目のお題は、「革命家・ベートーベン」です。
革命家、といえば確かにフランス革命後、自由・平等・友愛をかかげて市民革命の反動に対し、フランス軍を率いて戦ったナポレオン・ブナパルトに感銘を受けて交響曲第3番「英雄」を作曲したベートーベンですが、そのこととは異なります。ここれの「革命」は、それまでのクラシック音楽に「革命」を起こしたベートーベンンがテーマであることを示しています。
今回の解説は、指揮者の高関健さんです。高関健さんは、カラヤン最後の弟子と言われ、カラヤンの薫陶を受けた名指揮者ですが、その語り口はとてもわかりやすく、聞き手の吾郎さんとのやりとりも軽妙で楚お話しに引き込まれます。高関さんは、ベートーベンが音楽に巻き起こした3つの革命について、実際にオーケストラを指揮しながら解説してくれるのです。
(NHK 250プロジェクト twitter.com)
まず、第一の革命。それは、あの交響曲第5番「運命」の冒頭に象徴されていたという話。世界で最も有名な交響曲と言っても過言ではない「運命」その冒頭は「ジャジャジャジャーン」というたった4つの音です。この交響曲はベートーベンをして最高の交響曲を創るとの思いから捜索されましたが、それはこの4つの音からどれだけの交響曲を作曲することができるか、という課題への挑戦だったのです。
それを象徴しているのがこの「ジャジャジャジャーン」でした。
これまで、「運命」の楽譜をまじまじと見たことがありませんでしたが、その最初にかかれているのは音符ではなく、休符だというのです。なぜ休符が最初にかかれているのか。それは、音楽が始まる前に一拍のタメがあるということです。あの「ジャジャジャジャーン」は、正確には「(ン)ジャジャジャジャーン」だということです。
高関さんは、その(ン)がどれだけ指揮者にとって難題なのかを、実際の指揮によって教えてくれます。その(ン)によって、ベートーベンはこの交響曲の始まりを4つの音から進化させて渾身の響きへと進化させようとしたのです。実際の指揮では、高関さんの解説に合わせて、吾郎さんもオーケストラの指揮に挑戦します。この流れで、我々はベートーベンがどれほど「凄い」ことを考えていたのかを身を持って体験します。
この(ン)から始まり、その変奏のすばらしさを知った後に聞かせてくれた「運命」は。な・な・なんと、ドイツ・カーマンフィルと指揮者パーヴ・ヤルヴィによる交響曲第5番だったのです。ヤルヴィ氏の緊迫感と高揚感にあふれる「(ン)ジャジャジャジャーン」は、我々の心を射抜きます。東京オペラシティでのベートーメンがコロナ禍のために聞けなくなったことは残念でしたが、この番組がその感動を補ってくれたのです。本当に涙ものの「運命」でした。
(ヤルヴィ氏 交響曲全集 amazon.co.jp)
さて、皆さんはベートーベンが起こした革命のあとの二つがきになりますよね。ここから番組は、改めて我々にワンダーを感じさせてくれるのです。
「感情を音楽で表現する。」
第二の革命はこれです。今でこそ、J-POPSでも歌謡曲でもジャズでも音楽は我々の感情を表現し、我々の心とのキャッチボールを創りだします。しかし、ベートーベン以前の音楽は、貴族たちスポンサーのために作られたバックグラウンドミュージックでした。そこに大げさな感情がはいることは、スポンサーである貴族たちのサロンでは邪魔臭いものだったのです。しかし、ベートーベンは音楽をサロンから解放し、市民のもとへと取り戻したのです。
交響曲第5番「運命」と同時に作曲された第6番「田園」。この曲は各章に彼自身が表題をつけています。例えば第一楽章は「田舎に到着したときの愉快な感情のめざめ」と記されています。高関さんは、オーケストラを指揮しながらバート―版がどのようにしてこの曲で感情を表現したかを語ってくれます。木々のささやきや小鳥のさえずりをおなじみの楽器を響かせ合いながら表現し、我々はベートーベンとともに、田舎の田園を散策するすがすがしさを感じることができるのです。
ことに田舎が夕立に襲われる情景の表現。高関さんはその予兆から雷がとどろくまでを、それぞれの楽器で雷や豪雨にひとビオが逃げ惑う様までがみごとに描かれていることを我々に教えてくれ、我々にさらなるワンダーを味合わせてくれるのです。
そして、第5番はヤルヴィ氏の名演でしたが、「田園」の指揮者はあのブロムシュテット氏でした。この94歳のマエストロの「田園」は、「感情を音楽で表現する」という言葉を体現する素晴らし演奏です。この日のプログラムは心躍る素晴らしいものです。
さて、革命その3は「楽章をつなげる。」ことです。
高関さんは、あの名作ピアノソナタ23番「熱情」の第2楽章の最後の章を奏でます。第2楽章の最後の音は、そのまま第3楽章へとつながり、そこに切れ目を感じることがありません。この音楽を途切れさせることなく、さらなる高みへとつなげていく手法が、ベートーベンの革命であったのです。この手法は、あの「運命」の第3楽章から第4楽章にも使われており、我々は、「運命が戸を叩く」と呼ばれるあの感動を予感から味わうことができるのです。
番組では、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」の第2楽章から第3楽章への間のこのつながりを、ブオrムシュテット氏の指揮、ピアノ、ルドルフ・ブフビンダー氏の名演で聞かせてくれるのです。ブフビンダー氏は、時には感動し、ときにはうれし気に旋律を指から醸し出し、心からこの曲を奏でることが好きであることが伝わってきます。
この番組が示してくれたベートーベンの「革命」は、大いなる感動をもたらしてくれました。
【ベートーベンはいつまでも続く】
この番組ののちにも「クラシック音楽館では、ベートーベン特集が続いています。
「オーケストラでつなぐ希望のシンフニー」と題されたシリーズは、日本各地のオーケストラによるベート-ベン交響曲の演奏をつないでいきます。
11月15日には、群馬交響楽団と指揮者高関健氏による交響曲第3番「英雄」と九州交響楽団と指揮者小泉和裕氏による交響曲第4番が放映されました。特に九州フィルが奏でた4番は、緊張感あふれる緩急をみごとに表現して、心から感動しました。
また、23日には名古屋フィルハーモニー管弦楽団と若手の雄、川瀬健太郎氏の指揮による交響曲第7番。番組では、各地のオケの特長を紹介するとともにリハーサル風景も紹介してくれるのですが、川瀬氏のリハは本当に面白かった。第7番はクレッシェンドが何度も繰り返されることが特長ですが、川瀬氏はそのひとつひとつにいかに緊張感を持たせるかを何度も語っています。そして、本番では、その言葉の通り、緊迫感あふれるクレッシェンドが繰り返されるのです。
(名古屋フィル 交響曲第7番 twitter.com)
さらに札幌交響楽団とマエストロ秋山和慶氏のよる北海道のようにおおらかな交響曲第8番。そして、広島交響楽団と指揮者下野竜也氏による劇音楽「エグモント」が披露されました。下野さんがインタビューで、「ベートーベンの音楽は、当たり前のことを力強く、感動を持って語る音楽だ」という言葉は至言でした。確かにとてもわかりやすい音階で感動を呼ぶベートーベンの音楽は「当たり前のことを感動的に奏でる」唯一無二の音楽に違いありません。
さて、すっかりベートーベン話で盛り上がりましたが、紙面も尽きましたので今夜はこの辺で失礼します。
それでは皆さんお元気で、感染防止対策を万全に、またお会いします。
〓今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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