こんばんは。
菅総理が総裁選挙に不出馬を表明したことには少なからず驚きました。
総理は、自ら差配できる戦略である解散総選挙がコロナ禍の中で選択できないとして、最後の手段として自民党の党内人事の改革を打ち出しました。しかし、自民党内からの様々な声を受け止めた総理は、解散も人事も取りやめて満期を迎える自民党の総裁選挙に出馬しないとの選択をし、総理を辞任する道を選んだのです。
菅総理は、日本の憲政史上最長の任期を務めた安倍総理のもとで7年以上も官房長官をつとめ、安倍総理の突然の辞任を受けて第99代目の内閣総理大臣の座に就きました。菅さんは、官房長官として新型コロナ対策に当たり、その継続を第一義として総理に就任しました。その意味で、菅さんの内閣はまさに実務内閣であり、コロナウィルスが終息すれば、その功績により総理の株も上がって自民党総裁の椅子は引き続き菅さんのものであったと思います。
(総裁選不出馬を表明する菅総理 asahi.com)
しかし、コロナウィルスもさるもの、次々に新たな遺伝子を獲得し、インド発のデルタ株はその威力を増して、こともあろうに2020東京オリ・パラ開催を襲ったのです。1年延期をしたにもかかわらず、大会は第5派の最中に行われることとなりました。
もともと菅さんは、安倍さんの後継として立候補することさえためらっていたのですから、権力に対する妄執は持っていないのではないでしょうか。もちろん、政治家になったからにはその頂点に立ちたい、との人としての志はあったに違いありません。しかし、ワクチン接種によって一定の道筋ができたことによって、菅さんは自らの引き際を潔く判断したのだと思います。
菅内閣は、携帯電話料金の引き下げ、デジタル庁の発足、東京オリンピック・パラリンピック開催とたった1年間の間に驚くほどの成果を挙げました。望むべくはその先までも先導して成果を挙げることなのですが、政治とは摩訶不思議なもので国民感情、自民党事情は菅さんの継続を望んでいないようです。
2世議員ばかりが闊歩する中で、庶民宰相として腕を振るった菅総理に心からの拍手を送りたいと思います。
次期総裁についてはいろいろと思うところがありますが、野球と政治の話は営業マンにはご法度ですので、今回はここまでといたします。
さて、緊急事態宣言の行方も気になる中、今週は久々に日本のインテリジェンスを語る対談本を読んでいました
「公安調査庁 情報コミュニティの新たな地殻変動」
(手島龍一 佐藤優著 2020年 中公新書ラクレ)
【インテリジェンスのワンダーとは】
このブログをフォロー頂いている皆さんは、「インテリジェンス」のラベルに34の記事が連なっていることをご存知かと思います。
最初に「インテリジェンス」と出会ったのは、国際スパイ小説です。
「インテリジェンス」は「諜報」と訳されることが最も多いので、すぐにスパイを思い浮かべてしまいます。もちろん、そのワンダーは「諜報小説」によるところが大きいのは間違いありません。その手に汗握る面白さはエンターテイメントにうってつけですが、本来の「インテリジェンス」は、その国の存続を左右する最重要の情報を取得することを意味するのです。
「国の存亡を左右する」と言えば、その最たるものは戦争です。
例えば、第二次世界大戦における「諜報」は、各国の存亡にストレートに結びついていました。例えば、真珠湾攻撃をめぐる「諜報合戦」は人間ドラマまでも内包した手に汗握るストーリーとして、様々に描かれています。
代表的な小説は、佐々木襄さんの「エトロフ発緊急電」(新潮文庫 1994年)です。この小説は、スパイ小説というよりも、戦線で友を殺さなければならなくなった日系アメリカ人の若者ケニー・ケンイチロウ・斉藤が、アメリカ海軍によってスパイに仕立て上げられ、真珠湾奇襲の情報を入手し本国へと送るとの密命を遂行する物語です。その物語には幾重もの人間関係が刻まれて、まさに愛憎の中で人々が身もだえる姿が描かれた傑作です。
(文庫「エトロフ発緊急電」 amazon.co.jp)
さらに、逢坂剛さんのイベリアシリーズ第2作の「遠ざかる祖国」(講談社文庫 2005年)にも真珠湾奇襲の情報が登場します。このシリーズは、日中戦争中の日本から中立国スペインに送り込まれたスパイ、北都昭平の活躍を描いたエスピオナージです。当時のマドリードは、第二次世界大戦における中軸国と連合国の諜報合戦の中枢でした。そこには、イギリスのMI6、アメリカのOSS、ドイツのアブヴェーアが諜報員を送り込み、丁々発止の諜報戦を演じます。
日本から送り込まれた北都昭平は、日本の現状で日米開戦に突入すれば日本に勝ち目がないことを見抜き、なんとかアメリカに参戦させたいチャーチルの思惑を背景に日本に開戦を止まらせようと奔走します。その中で、真珠湾攻撃の諜報合戦が繰り広げられるのです。
真珠湾攻撃と言えば、少し変わったインテリジェンス小説もあります。
それは、西木明さんのインテリジェンス小説「ウェルカム トゥー パールハーハー」(2011年 角川文庫)です。
「真珠湾奇襲による日米開戦」は、日本にとっても国の存続を決定づける最重要情報ですが、第二次世界大戦で劣勢に立たされていたイギリス、対ドイツ戦で国土と体制を守らなければならないソ連、国内の世論から中立を貫くことを求められているアメリカ、どの国にとっても国の存亡にかかわるインテリジェンスに間違いありません。
この小説は、その題名の通りニューヨークに送り込まれた二人の日本人諜報員を主人公に、各国の諜報機関が「日米開戦」をめぐり、スパイ合戦を繰り広げる、本当に面白い小説です。モデルには実在した日本の諜報員が存在しており、そのリアリティが小筒に厚みを加えています。
話は長くなりましたが、「インテリジェンス」とは一国の存続にかかわる諜報のことを指すのです。
さて、現代の国際情勢の中でも各国は、インテリジェンスの取得に力を入れています。その代表はパレスチナとの戦闘が常に隣り合わせのイスラエルです。その諜報機関である「モサド」では、イスラエル存続のためにあらゆる諜報に日夜奔走しています。その実態は、「モサド・ファイル イスラエル最強スパイ列伝」(早川ノンフィクション文庫 2014年)や元モサド長官だったハレヴィ氏が著した「イスラエル秘密外交:モサドを率いた男の告白」(新潮文庫 2015年)を読めばその一端にふれることができます。
(文庫「モサド・ファイル」 amazon.co.jp)
ところで、日本のインテリジェンスはどうなっているのか。
現在の日本で、インテリジェンスを語らせれば右に出る者がいないと言ってもよいのは手島龍一氏と佐藤優氏です。お二人は、これまで最新の国際情勢をインテリジェンスの観点から語る本を対談で上梓してきました。
そのお二人が日本のインテリジェンス機関を語ったのが今回の対談本です。
【時代は公安調査庁に光を当てた】
さて、日本のインテリジェンス機関と言えば、内閣情報調査室が思い浮かびますが、日本で各省庁に必要な調査機関が存在します。例えば、外務省では国際情報統括官、防衛省では統括情報局のもとに陸上・海上航空それぞれの情報隊、警察庁では警備企画課、海上保安庁にも警備情報課があります。
省庁それぞれの情報は、内閣情報調査室にあげられて内閣情報会議、合同情報会議へと送られます。そして、最終的には官邸や国家安全保障会議に伝えられることになります。
内閣情報調査室には、実際に諜報自体を行う人材は配置されておらす、基本的には各省庁から送られてくる情報を取りまとめる組織なのです。日本のインテイジェンス体制の弱点は、ここにあります。つまり、アメリカのFBIやCIA,、イギリスのMI5やMI6、イスラエルのモサドなどのように意思決定者に直接インテリジェンスを伝える組織とは基本的に異なっているのです。
そんな中で、少し変わった位置づけにあるのが、公安調査庁です。「公安」というからには、公安警察に連なる組織化と思いきや、公安調査庁は法務省に属する情報組織なのです。いったいなぜ法務省が諜報組織を司っているのでしょうか。実は公安調査庁だけが戦前の諜報機関からの歴史を継承する組織だからなのです。
(煉瓦造の法務省旧本館 moj.go.jp)
この本では、公安調査庁がかかわった驚くべきインテリジェンスとその成り立ちが語られているのです。
まず語られるのは、2017年にクアラルンプール空港で暗殺された北朝鮮の最高指導者、金正恩の兄、金正男にかかわる情報です。暗殺から遡ること16年。2001年、金正男が日本の成田空港で拘束されるという事件が起きました。このとき、北朝鮮は金正恩の父、金正日が思考権力者として君臨していました。つまり、この時点で日本が拘束した金正男は最高指導者の長男であり、最右翼の継承者のひとりだったのです。
拘束された理由は、偽造パスポートによる入国容疑でした。この事件の顛末は、本書に詳しいので読んでいただくとして、日本の入国管理者はなぜ偽造パスポートをみやぶることができたのでしょうか。超優秀だったから?いえ、違います。
その答えは、事前に偽造パスポートによる金正男の入国を当局が知っていたからなのです。そして、この情報を入手したのが、公安調査庁だったというのです。いったい公安調査庁はどうやってこのインテリジェンスを手に入れたのでしょうか。それは、海外のインテリジェンス機関からのタレこみ情報だったのです。
そして、情報をもたらしたのはどの国の機関だったのか。
インテリジェンスの世界では、情報の入手もとは秘匿することが絶対的なルールです。なぜなら、それを漏らした組織は、信用を失い二度とこの世界では活動できなくなるからです。つまり、この情報がどこからもたらされたのかは、永遠の謎です。しかし、著者であるお二人は、得意の見立てによってそのもたらした組織を特定していきます。それは、なんとイギリスのインテリジェンス組織だというのです。
この事件を語ったのち、お二人は公安調査庁がなぜ、海外のインテリジェンス組織から大きな信用を勝ち得ているのかを、日本のインテリジェンスの実態と合わせて語っていくのです。
もうひとつだけネタばれです。2014年。シリアでは「イスラム国」がその勢力を拡大し、世界中の若者をテリリストとしてスカウトしていました。そして、日本でも衝撃的なニュースが報道されました。それは、当時の北大生が「イスラム国」と連絡を取り合い外人戦闘員として、イスラム国に渡航するために九空権を入手していた、という事件です。この事件は、事前に警視庁公安部が私戦予備・陰謀の容疑で学生から旅券を押収していたため未遂に終わりました。
(対談「公安調査庁」 amazon.co.jp)
この事件を抑えたのも公安調査庁がさまざまな諜報によって日頃から活動し、イスラム国の連絡所となっていた古書店をマークしていたことが功を奏したからでした。
公安調査庁は、日本のインテリジェンスを担うべき組織なのか。
答えは、お二人の本で読み解いてください。久々にインテリジェンス話題にのめりこみました。皆さんもこの本で、ぜひ日本のインテイrジェンスに思いをはせて下さい。
さて、コロナ禍も新規感染者数は減少し、緊急事態宣言も解除されそうな雲行きです。しかし、ワクチンを打っていても感染リウクはあると言います。さらにウィルスは変異します。我々も油断することなく、感染対策を万全にして毎日を過ごしましょう。
それでは皆さんお元気で、またお会いします。
〓今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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