茂木健一郎 偶然と必然のシンギュラリティ

こんばんは。

  世界中を席巻した新型コロナウィルスは、人類の繰り出すワクチンに対抗してその姿を次々に変化させ、現在はオミクロン株のXE系という新たなフェイズへと変化しています。人類は、巧みな知恵と対応力で対抗し、インフルエンザと同様の共存可能な状況への移行を試みています。

  ヨーロッパやアメリカなどではすでに法的、行政的な規制などは徐々に撤廃され、個人による防衛とそれを基礎とした経済の活性化へとかじを切ろうとしています。

  我々日本も、徐々に海外からの入国規制を緩和し、国内での経済活動の制限も少なくして一人一人の感染防止意識に裁量をゆだねる方向に移行しつつあります。我々がコロナウィルスと共存していくには、すべての年代、あらゆる生活様式において感染対策と防疫消毒行動を理解して日常生活を送ることが求められます。コロナによって死亡、重症化、そして後遺症発症が起きることを踏まえて、自らの命や周囲の大切な人たちの命を守っていくことが必要です。

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(新オミクロン株 XE mainichi.com)

  一日も早く、旅行、会食、交流、イベントができるよう努力を重ねていきましょう。

  一方で、ロシアがウクライナに一方的に軍事侵攻し、戦争を始めてからすでに2カ月がたとうとしています。ウクライナではすでの数万の市井の人々が犠牲となり、あまつさえ、ロシア軍が占領した地域では、市民の虐殺が行われていたことが明らかになりました。

  ウクライナの人々は、劣勢な軍事装備にもかかわらず、ゼレンスキー大統領の下で驚くほどの結束力を堅持して、ついにロシア軍を首都キ-ウ(キエフ)から撤退させました。プーチン大統領は当初首都を制圧し、ゼレンスキー大統領を拘束のうえで罷免し、親ロシア政権を打ち立てようともくろんでいたと思います。しかし、大統領のリーダーシップと欧米各国からの支援、さらにはウクライナ国民の自由への熱い想いは、ロシア軍を首都から撤退させたのです。

  しかし、侵攻したロシア軍は体勢を立て直し、2014年に併合したクリミア半島に陸地から移動できる街道を確保する目的で、東部のドネツク人州をドネツク民共和国、ルガンスク州をルガンスク人民共和国として独立させる目的で趙具地区の制圧へと方針を切り替えたのです。

  ロシアの各都市へのミサイル攻撃は容赦なく罪なき市民を襲い、クリミア半島への交通の要所マリウポリでは、街そのものを壊滅させ、数万人にも上る市民を殺戮しようとしています。我々人類は21世紀に入り、戦争がいかに無益で人類の未来を閉ざすものなのかを学んできたはずです。しかし、長く権力の座に君臨する独裁者には「ロシア帝国」の復活以外のことは目に入らないというのでしょうか。

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(最後の砦 マリウポリアゾフスターリ製鉄所 asahi.com)

  独裁的権力による仮想民主主義者たちは、自らの政権と国家を強くするために領土への野心をとめようとはしません。そして、利害が一致する限り、プーチン大統領の非道に反対することなく、そこへの一体感さえも漂わせているのです。

  欧米各国は、この非道な戦争に対してなんとか地域紛争として世界戦争への広がりを麻恵洋としています。プーチン翁はそれをいいことに「核兵器」をちらつかせて欧米をけん制しています。プーチン翁はこの殺戮である戦争が自らに襲い掛かってきた過去を正しくみつめなければなりません。不毛な侵略によってどれだけのロシア国民が死んでいるのか。一人の権力者の我がままによって何万人もの人々が死んでいくのを見るのは耐えがたいことです。

  我々は、そのことの非道さに決して目をそらせてはなりません。そして、このことの過ちをあらゆる場面で糾弾していかなければなりません。

  さて、本の話です。

  先日、本屋巡りをしているときに新書の棚に「茂木健一郎」という名前をみつけました。一時期、この名前が記されている本はすべて読んでいましたが、途切れていました。久しぶりに見た名前から本の表題を見るとそこに書かれていたのは、「クオリア」という一言。胸を躍らせて手に入れたのはいうまでもありません。

「クオリアと人工意識」

(茂木健一郎著 講談社現代新書 2020年)

【人工知能と人間の脳】

  この本では人工知能における「シンギュラリティ」が語られています。

  茂木さんは脳科学者ですが、もともとは物理学を専攻していました。物理とはこの宇宙を司る法則とその根源を研究する科学です。その研究は、相対性理論を生み出し、すべての物質、宇宙は原子、電子、素粒子によってできていることを解き明かしました。その結果、我々の宇宙はその95%が未知の物質であるダークマターによって満たされていることが分かっています。

  その宇宙の存在と双璧をなすワンダーが生命です。

  ことにこの地球上では究極の脳を持つ人類はどのような存在なのか。人間とは何なのか、人間の脳とはどのようにして人間を人間として存在せしめているのか。

  茂木さんの提唱した「クオリア」の謎を解明すべきとの命題は、きわめて新鮮な問いかけでした。

  我々は生きていくうえで自分の身の回りを五感によって認識しています。例えば、目の前に白い犬がいて、しっぽを振っています。かわいいなあ、と思いつつ、その犬が突然襲い掛かってきたらどうしようかなどと考えます。基本的にはその犬が目で見えていること、その声や息が耳に聞こえていることによって、それが目の前にある事実であることを認識します。我々が認識するその犬に関する質感が「クオリア」と呼ばれるものです。

  現実として目の前に白い犬がいる場合、人がその「クオリア」を感じていることはとてもわかりやすい事象です。人間の不思議さは、白い犬が目の前にいたくてもその白い犬を想い感じることができることです。我々は目をつぶって犬を思い浮かべ、その白い色や毛並みの質感までをも感じることができます。それは我々(の脳)が「クオリア」を創りだしているからだというのです。

  つまり、クオリアのワンダーとは、我々人間が思うことのすべては「脳内現象」であって、外の世界はそこには存在していないという事実なのです。

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(新書「クオリアと人工意識」 amazon.co.jp)

  一方、人工知能における「シンギュラリティ」とは、人工知能が2045年に人の脳の性能を超える状態となり、人類では想定できないことが起きる、ことを指しています。もともと数学の世界では無限大になる「特異点」を意味しますが、その言葉を人工知能に転用したものです。

  具体的には、コンピューターが人間を超えることを意味します。

  我々の脳は、微弱な電気信号を使って神経才能間でのやり取りにより人間の体を動かしています。その電気信号は、シナプスと呼ばれる数億にも上る神経細胞から発せられますが、シナプスとシナプスの間にはニューロンと呼ばれる極小の隙間(空間)があり、ニューロンの数は数兆に上るとも言われています。そして、コンピューター内でやり取りされる電子信号が、我々の脳内のシナプスとニューロンの数を超えるとき、人間以上の人工知能が生まれ、そこで何が起きるかはまったくわからない、というのです。

  果たして「シンギュラリティ」により人工知能は人間を超えるのでしょうか。

【人工知能はクオリアを生み出すのか?】

  茂木さんは、脳科学者としてその命題に挑んでいきます。

  この本で茂木さんは、人間の脳と人工知能の間にどんな課題があるのかを科学的に紐解いていきます。それには、我々の存在を人間として成立させている諸条件を分析することが必要です。

  この本のワンダーはそのプロセスに宿っています。

  まず、重要な認識は、「人間」や「人類」という言葉はあくまでも言葉であって、実際には一人一人の身体性から発せられる意識や知性が「人」であるという考え方です。我々の持っている「意識」、「知性」、「認識」は一つの個体の内側で起きていることであり、外界とは切り離されていると言うことです。

  人工知能が我々人間と同じ次元で成立するためには、人工知能が内側の世界を自ら自律的に確立していることが求められます。

  人工知能には、自ら意識を持った自律的な能力を備えた「強い人工知能」と特定の能力に特化して能力を発揮する「弱い人工知能」があります。皆さんは気づいていると思いますが、この本の題名にあるのは、「人工知能」ではなく「人工意識」です。囲碁や将棋、気象予想やDNA解析、特定の力仕事、短銃作業の連続などなど、「弱い人工知能」はすでに我々人間をはるかに凌駕する能力を備えつつあります。

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(AIで再現された美空ひばりさん sankei.com)

  一方、人工意識を持った自ら認識し、判断する「強い人工知能」はまさに発展途上です。

  「クオリア」の重要性を説く茂木さんは、この本の各章で人工知能に必要な「知性」、「意識」、「意志」について考察を加えていき、人工知能が「人工意識」を身に着け、クオリアにたどり着くことができるのかについて、最新の脳科学による分析を試みていくのです。人工知能が人工意識を持つためには、我々一人一人が持っている意識とは何か、が解き明かされなければ、人工意識の規範を作ることができません。

  しかし、意識とは不可思議な現象なのです。例えば、我々が眠りについた時、「意識」はまるで消えたかのようになくなります。そして、朝起きた時、意識はよみがえります。ところで、寝た時の自分と起きた時の自分が同じ人間であることはなぜ分かるのでしょう。それは、我々の脳が状況証拠を積み重ねて判断できるからなのです。それは、起きた時の状況を認識し、意識を失った時と同じ状況、同じ状態であることを記憶から取り出して初めて連続した自分であることが認識されるのです。

  この本でワンダーだったのは、「意志」とは何かという認識です。

  科学的に考えると、この宇宙はアインシュタインをはじめとした物理学者たちが解き明かしたように、すべて物理的なものから生まれ出されています。つまり、対称性のズレからビッグバンが起こり、素粒子を基とした数々の元素が生まれ出されます。もともと無機的であった元素は、100億年をかけて様々な元素に生まれ変わり、地球という稀有な環境の中で有機的な生命が生まれました。そして、有機的な元素は、驚くべき進化を経て、我々ホモサピエンスが生まれました。

  科学的に言えば、こうしたプロセスはすべて必然であり、なるべくしてなっている、というのです。

  しかし、我々人間はひとりひとり「意志」を持ち、環境の中で自由な意思で選択を行い、自分の今を選択と努力によって勝ち取ってきたと認識しています。それは、偶然が満ち満ちた世界の中で意志による選択があったからだと信じています。

  しかし、本当にそうなのでしょうか。それは単なる思い込みであり、客観的に見ればすべては物理学の方程式、ニューロンとシナプスによって導き出された必然の出来事なのです。

  しかし、茂木さんは、一人一人が自らの意志で生き、努力を重ねることこそが人間の身体性であり、いまだ解き明かせない世界なのだ、といいます。


  はたして、「シンギュラリティ」は出現するのか。皆さんも、この本で最新の人工知能の課題を読み解いてください。ワンダーを感じること間違いなしです。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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