2020年冬ドラマ-心の傷を癒すということ一覧

心の傷を癒すということ 4話(最終回) 感想|皆の心に、安先生は生き続ける。

 

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ラストシーンの神戸ルミナリエのように、

見た者全ての心に"灯火"が宿り続ける、そんな最終回でした。

時を経て、安(柄本佑)が成長した家族を後ろから温かく見守る図は、まるで、

彼が亡くなったとしても思い遣りや優しい気持ちは

私達の世界で生きているのだ…というメッセージにも思えました。

 

安が心のケアを通して学んだ事は、

「誰もひとりぼっちにはさせへん」という事。

共に夢を追おうと励ました仲間、被災者全てに寄り添いたいという気持ち、

片岡(清水くるみ)が一時出て行ってしまった事で覚えた後悔と苦しみ、

自分が病気になったとしても未だ傷を抱える患者を最後まで診たいという意思…

今までの話を思い返してみると、どのエピソードも

「今目の前にいる人を救いたい」点で、彼の揺るがない信念を

描き続けてきたものばかりでした。

 

そんな彼に助けられたから、傷を抱えながらも前を向こうとする家族、患者がいる。

カセットテープの中にいる安の孤独を埋めようと

セッションをしてくれる湯浅(濱田岳)がいる。

誰かの為になろうと動く北林(浅香航大)がいるし、

講義を通して弟の活動を伝えようとする兄・智明(森山直太朗)がいる。

 

安に救われた者の心の中には、時間が経ったとしても彼は生き続けており、

それに恩返しをするように、彼の人生を紹介し、職務を引き継ぎ、

当時の記録を綴った著書を出版し続ける事で、彼の想いは次の世代へと受け継がれていく。

 

こうして出来上がる"人と人の繋がり"が、今を生きる若者にとって

いかに価値のあるものかを目の当たりにしたようで、

その温かさに涙を流さずにはいられません。

これが「心の傷を癒すということ」であり、

伝えていく事で孤独を抱える人が少しでもいなくなるかもしれない…という

希望を託された者=「残された光」なのだと

自然と感じ取れるタイトル&サブタイトルの入れ方も含めて、

最後まで「ああ、良い作品を見たなぁ」という気持ちで満たされるような作品でした。

 

全4話という短い話数だけあって、時間経過の描写は確かに多かったものの、

この世界の登場人物にはそれぞれの"生きた時間"があり、

駆け足を一切感じさせない脚本と演出がとにかく素晴らしかったです。

劇伴の緩急のつけ方も良く、わざわざそれで煽ろうとしなくても

「無音」と「行間」を使いこなせていれば、緊迫感溢れる雰囲気は

しっかり作れるのだとも証明してみせたと思います。

 

「知らなくていいコト」とは全く違った顔を見せ、1つ1つの言葉に重みを残す、

この人でなければ安先生は成立しないと思わせる柄本佑さんの存在感の大きさ。

震災に耐えながらも、3人の子供を女手一つで育ててきた

厚みが感じられる尾野真千子さんの佇まい。

コンサート会場前で、言葉にならないようなぐしゃぐしゃの感情を堪える濱田岳さんの上手さ。

安を支える師匠の役としては最適過ぎる近藤正臣さんのハマり具合。

このドラマに携わった役者さん一人一人の名前を挙げたいくらい、

毎回の演技にも魅せられました。

 

桑原亮子さんという脚本家を知れた事、

「こんな演技もされるんだ」「こんな優しい世界観も生み出せられるんだ」など…

全てにおいて新たな発見・収穫を得た作品でもありました。

これは毎年、特にこの時期になったら再放送すべきだと思います。

人生とはどんなものか?生きるとは何か?を、少しでも被災者目線になって

考えさせられる作品に出会えた事に、感謝します。

 

 

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心の傷を癒すということ 3話 感想|一人一人が尊重される社会…であって欲しい

 

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物語は、東日本大震災当時の2011年から始まり、

1995年、1996年、2000年と時が移り変わっていく。

時間軸が行ったり来たりするのはややこしくて、個人的には好みの手法ではないんですが、

本作に関してはその流れの速さもすんなりと受け入れられちゃうんですよねぇ。

 

エピソード自体も、今までの回もそうでしたが

特段「これ!」というどれか1つを強調した作りではないものの。

1つ1つのエピソードを満遍なく描く事で、作り手が伝えたいメッセージが浮かび上がり、

ミステリーのように、そこの結末に落とし込むのかという面白さもあります。

今回は「人と繋がりがある事の価値」がテーマだったと思っています。

 

避難所の責任者であり、他人の幸せを最優先してきた事で

自分を傷つけてきた校長(内場勝則)が、窮屈な想いをしていた奥さんを励まし、

それで元気付けられた奥さんはイカナゴを持って恩返しをする。

差別発言を浴びせられ続け何もかも失った父・哲圭(石橋凌)の

心のポッカリを埋めてくれたのは、第一線で活躍してきた息子の存在。

そして、どうやって現実を向き合おうとするかは"患者の意思"であり"自分の意思"では

決められない事に無力さを覚える安(柄本佑)もまた、

師匠の永野(近藤正臣)の存在によって救われる。

 

「耐えられへんような苦しさと悲しさの中で、生き延びる方法を見つけようとしたんや」

「生きる力が、強いんや。」

片岡(清水くるみ)にかけたこの台詞の重みに、泣く…。

安を始め、相手に対する優しい気持ちがあれば、いつかそのご恩が

自分に返ってくるのだという例を見たようでした。

 

一人一人が尊重される社会。

震災をきっかけに、傷つきやすい人間誰しもが居場所を見つけられる

社会であって欲しいし、これからの時代もそうあって欲しい…と

願わずにはいられない回でした。

 

 

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心の傷を癒すということ 2話 感想|形は違えど、しんどいのは皆同じ…

 

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全4話という短さで、初回は震災エピソードをほぼ絡めず、

安(柄本佑)が精神科医になるまでの生い立ちだけを描いたのは何故か?

と思っていましたが、その構成にしたのも意味があると感じられた2話でした。

 

安もまた震災をきっかけに、当たり前にあった生活を止む無く切り離され、

育ちも環境もバラバラの人々と共に過ごす事になった「震災経験者」の一人であって。

初回では一人の人間が味わった「苦しみ」「弱さ」「繋がりの温かさ」を描き、

今回はそれを大勢の被災者に落とし込む事で、

"単体"から"複数"へと物語を一段階アップさせて行ったように思いました。

 

記者を通して、本当に自分はこれで良いのかという葛藤。

普段違う環境で暮らしている人々が1つのフィールドに

集められた事から生まれる価値観のズレ。抱えている事情の違い。

しかし、心に傷を負った過去を持つ安が寄り添う形で、それらを解きほぐしてくれる。

誰が悪い、誰が正しいという「決めつけ」をしないように

描いているんだなぁというのが伝わります。

 

演出面にも結構変化があり、初回ではピアノ調の劇伴を多く取り入れて

重たい雰囲気にせず見やすくする事を心がけてきた一方で。

今回では極力劇伴を排除し"間"を増やす事で

当時の人々の気持ちをダイレクトに届け、思わず視聴者がそれぞれの経験を

登場人物に重ねて見てしまう作りになっていた印象でした。

 

対立が生まれていた者同士が、キックベースボールでワイワイ楽しそうに遊ぶ図は、

まるでみんなの心が1つになった象徴のようで思わず涙…。

しかし、今回をきっかけに復興へと希望を見出している人が多くなるであろう時に、

たった一人だけまだ前を向けずにいる

所謂「マイノリティ」側(この表現が合っているか分かりませんが)の心情にも

踏み込んでいくのがリアルです。

次回はそこを中心に描いて行くのでしょう。

 

NHKのドラマは、ドキュメンタリー番組を抱えている事から

調査力に長けている所が強みだとは前々から書いて来ましたが、

その長所を活かして「今何を視聴者に届けるべきか」という役目は

しっかり果たせています。

 

本作は、そう強く思わせてくれる作品です。

 

 

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心の傷を癒すということ 1話 感想|何でもない日々なのに泣かされる

 

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何でだろう…見ていて自然と涙が止まらなくなってしまったし、

どこかふわっと軽くなる心地さえしました。

冒頭で安(柄本佑)がピアノの演奏を止めるシーンの間の取り方が上手かったので

「これは信頼出来るかも」と思っていましたが、

最後までそのイメージが崩れる事のないクオリティで、本当に良かったです。

 

阪神淡路大震災を取り上げるというのは認知済み。

しかし、まだ被害が起こる前の話とはいえ、想像以上に「重たさ」「暗さ」を

全く感じさせない雰囲気になっていた所に新鮮味を覚えました。

同じ進路を目指す湯浅(濱田岳)と自転車早漕ぎ対決をしたり、

セッションをしたりする青春の日々、永野(近藤正臣)の存在の大きさ、

台詞を聞きたさにまた映画館で出会ってしまう終子(尾野真千子)との"運命"の可笑しさ。

そんな人々との関わりによって今の安が作られていく、

愛しい思い出達がたっぷり詰まった1時間。

軽やかなピアノ調の劇伴の入れ方も効果的で、掴みとしてはとても見やすく、

震災経験者が気を重くしないようにと配慮したんだろうな…とも思わされました。

 

全4話なので、初期設定として 子供〜精神科医院長と一気にタイムワープさせた

展開ではありましたが、不思議とサクサク進んだ感じはなく。

名札の「安田」という苗字をじっと見つめ続けるシーンを幼少期最後にしたお陰で、

歳月を経て、世間に好かれようと肩書きばかり気にする父に窮屈さを覚えたり、

「ええ名前やと思います!」とありのままの気持ちを伝えたりする安にも、

"不安の安"から"安心の安"に変わるのも、

在日というコンプレックスと常日頃戦いながら過ごしてきたのだという

空白の期間が想像出来た気がします。

 

始まる前までは、精神科医の安が震災経験者の患者と対話していく事で

当時の出来事を徐々に描いていく「ドキュメンタリー」的な作りになるのだと

思っていましたが。

実際には安の半生を描くドラマで、

誰かに癒しを与える安もまた誰かによって癒される…という温かさをも

物語に落とし込んでいくのだというのが、

どんな方向性で行くのかがよく分かった初回でした。

次回から本題へ…という所なのでしょうが、この感じなら期待出来そうです。

 

最後に超余談ですが、俯いた時の柄本佑さん、お父さんに似てきましたね。

 

 

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