
冒頭数秒の、お月様はシャーベットの匂いがすると
キラキラした目で見つめて言う幼少期の健治の回想(+結晶がパラパラ落ちてくる図)から、
現在の健治(磯村勇斗)の日常シーンに切り替わった時にかかっていたピアノ調の劇伴まで、
見聞きしていて「あ、これ大好きかも」センサーが既に働いていたんですけど…
話を追うごとにそれが増幅するばかりでした。
率直に言ってしまうと、「僕らは奇跡でできている」「宙わたる教室」が好きな人には
刺さる作品かもしれません。
後者に関しては天体繋がりではあるものの、
前者に関しては、ただカンテレ制作ドラマ同士ってだけでスタッフは全然違うんですけどね。
でも、描写の所々で重なって見えるのです。
物語の舞台は、男子校と女子校が合併して間もない「濱ソラリス高校」。
ジェンダーレスを意識してか、
女子のスラックス着用も採用された新しい制服は評判が悪いらしく、
実際に生徒副会長・斎藤(南琴奈)が着用すると周囲がざわざわし始め、
やがて生徒会長・鷹野(日高由起刀)も含めて不登校になってしまったのは
新しい制服のせいなんじゃないかと考えた北原(中野有紗)が
制服の廃止を訴える…というのが今回のお話。
教師たちも視聴者に向けて苦悩を嘆いていたけれど、
由緒正しき雰囲気の女子校と、工業系の男子校が合併するというのは
ある意味異文化の融合みたいなもので、
生徒たちにとって、自分の知らない価値観や常識が否応にも混ざり込んでくれば
それは恐怖に変わり、不安に怯えながら過ごしている生徒はそう少なくないはずなんですね。
そして…学校は決して「楽しい」「青春」ばかりが詰まった場所とも限らない。
多種多様な人と毎日顔を合わせるが故に、人間関係で疲れたり、
居場所を保とうとして気を遣う事に精一杯だったり、最悪の場合いじめに遭ったりもしてしまう。
学校が嫌いだという健治は多分、小学校の頃に苦い経験をたくさんしてきたのかも…ですね。
でも、そんな健治が、学校で"きれいなもの"に触れた。
「普通に学校、好きなんで」と鷹野が言った時に現れた
ピンク色でふわっとしたものから漂う純粋さに、私も心が惹かれて…。
鷹野と斎藤の不登校に関しては、制服が原因じゃないんだろうとは予想していたけれども、
憶測ばかりの空気の中で、彼らの見えない所で互いを静かに尊重し合う、
恋でも友情でもない"愛"が生まれていたという事実に、
安堵感と温かい気持ちで包まれる心地でした。
今回で健治は、鷹野と斎藤の優しい関係性を知り、
北原からは、学校を自分の居場所にするために必死に戦う美しさを知る事が出来た。
初回を見た限りですが、「知る」が作品の軸になっているのではないかな?と思いました。
それで言うと…鎖で閉ざされ長く使われていなかった天文ドームが、
健治の象徴にも見えるんですよね。
鎖を断ち切り、天文ドームの装置を久々に開くと見えた星いっぱいの夜空は、
生徒たちの関わりを経て「学校に隠された"きれいなもの"を探してみたい」という
彼の小さな変化とリンクします。
中に入っていく様は、子供の頃こっそり遊んでいた秘密基地への潜入をも彷彿とさせます。
全体に青みがかっているのに冷たさは感じられない、
白と暖色系の光が適度に混ざったかのような映像は、見ていて心が落ち着きますし。
主人公も、主人公を取り巻く登場人物もみんな魅力的。
伸びやかな劇伴をバックに、自分なりの視点で素直に物を言う健治、
どこかズレてる三宅(坂井真紀)、穏便な性格の井原(尾身としのり)、
風紀委員長的な山田(平岩紙)による会話の応酬も楽しかったですが…
極め付けは山田の「それは…びっくり度合いというか?」かな(笑)
平岩紙さんが良い味出されてるんですよね。真面目と惚けた発言のギャップの強さ。
あ、主人公につく若手教師がよくある、規則や自分の常識に囚われがちなキャラじゃなくて、
堀田真由さんのほんの愛嬌も交えて、わんぱくな一面を覗かせてくる所も素敵です。
今回の裁判がディベート寄りで、尾𥔎(稲垣吾郎)の論破で終了したのもあって、
学校にスクールロイヤーが派遣されるという設定がどこまで活かされるのかは分かりませんが。
学校という名の宇宙で過ごす生徒たちの中で光る"きれいなもの"を健治が掬い上げる…
そして、健治もいつしか学校への捉え方が…そんな物語になっていくのでしょうか。
「あ、これ大好きかも」が「やっぱり、これ大好きだわ」に日に日に変わっていくと良いな。
星がよく見える天気で、完全に暗くなった夜の時間に見たい作品ですね。