本作を見ていると、美術館でずらっと展示されている絵画を
見ているような感覚に陥るんですよね。
もう少し具体的に書くとするなら、一人の人生を紹介する個展が開かれていて、
別の空間に入ると「成長期」「晩期」といった章立て構成になっている概要パネルが
入り口に貼られていて、それをじっくり読み終えたら
あとはタイトルと制作した年、描画方法だけが簡潔に書かれた情報を元に、
1枚1枚の絵を自分のペースで、自分なりに解釈しながら鑑賞する…みたいな、そんな感じ。
(説明が下手なので、これで伝わるのかどうか分かりませんが…(汗))
冒頭は、中学生の頃の初恋相手だった吉野さん(中村里帆)が
浩史(賀来賢人)の赤い自転車を壊し、それが自分のものだとは言えないまま
壊す作業を一緒に手伝ってしまうというカオスな場面から始まります。
この二人の関係性の他の描写といえば、そこから中学生時代の回想に入り、
タイマンはろうぜと誘われ、ゲームボーイで対戦し、
勝つと一回ガッツポーズして負けると唇を噛む姿に惚れていたらしい事が淡々と描かれて終わり。
時を経て、赤髪の岡田さん(小西桜子)の猛烈なアプローチに押されプロポーズをするも、
「妹扱い」された事が気に食わなかった彼女にフラれてしまう場面が描かれますが、これも淡々。
場面紹介、説明台詞はほとんど排除されている作りなので、
ある意味ドラマらしくない展開が続きます。
赤が共通点の2人の女性を描いている事は分かりますが、
途中まで見ると「で、何が言いたいの?」の連続でもあります。
しかし、そんな疑問符はたった1つの台詞で一気に吹き飛びます。
「失恋のショックで、"ド"の音しか聞こえない気がする」
これだけで、"赤髪"の女性にフラれると同時に、
"赤い自転車"を壊した初恋相手との叶わぬ恋をも思い出してしまう「恋愛に対するトラウマ」、
そして、女性とどう上手く接してあげたら良いのか分からなくなってしまった「迷い」が
暗喩的に表現されていたと思いました。
私が最初に「本作を見ていると美術館に展示されている絵を見ている感覚に陥る」と
書いた理由もそこにあり、"台詞"を通り越して最早"詩"のようにも聞こえるこの独特な言葉でも、
主人公が今どんな心境を抱えているのか受け手が感情移入出来てしまう
台詞運びのセンスの光る点で、強く印象に残りました。
もう1つ強く印象に残った所といえば、やはり最後のシーン。
「今の俺は"ド"の音が嫌なんだよ!」「誰がステップ踏んでも"ド"の音になるでしょ!」
「じゃあ踊ってみろよ!男だったら踊れよ!"ド"じゃないんだろうな!?」
この2人にしか生まれないような奇妙な会話の連続がとにかく可笑しい。
しかし、派手な絨毯に浩史が足を踏み入れた途端、主題歌が流れ、ダンスタイムが始まると…
TRFのSAMがそう言っていたんだとアピールする浩史の姿のシュールさ、
やり場のない、どう扱ったら良いか分からない感情を相手にぶつけてしまう不器用さ、
他人が聞いたら「なんじゃそりゃ!?」と思う話でも、2人の間では一生忘れられないであろう
"幸せな思い出"に変わってしまう愛おしさ、
あらゆる感情が一瞬にして込み上げて来て、笑うと同時に涙が溢れるように…。
ここまで、泣いたら良いのか笑ったら良いのかごちゃごちゃになってしまう気持ちになった
恋愛描写は初めてでした。
優しいピアノのイントロ、アイナ・ジ・エンドさんのしっとりとした声の入りが、
まるで人間臭く生きる2人を包み込むかのようで、
今までの回で一番内容とシンクロしていたと思いますし。
踊る姿がコマ撮りで映し出される映像も、思い出のアルバムを1ページずつ
めくっているように見えて、中々秀逸な演出でした。
見終わった後は毎回、一言では表せない、不思議な余韻が残る作品です。
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